
10月27日に投開票された衆院選では、自民、公明両党の与党で過半数(233議席)を確保できるかが最大の焦点だったが、与党は64議席を減らし過半数に届かなかった。石破茂首相(自民党総裁)が掲げた「勝敗ライン」に達することができず、政局が流動化する事態も想定される。本レポートでは、石破政権を待ち受ける政局シナリオを整理したうえで、経済政策運営への影響を見通したい。
目次
自民党は公示前の247議席から191議席に激減した。公明党の24議席(公示前32議席)と合わせても215議席で、過半数の233議席に届かなかった。自民、公明両党での過半数割れは、民主党政権が誕生した2009年以来15年ぶりとなる。野党第1党の立憲民主党は、公示前の98議席から50議席増えて148議席を確保した。一方で野党第2党の日本維新の会は公示前の44議席から38議席に減少。国民民主党は大幅増となる28議席(公示前7議席)などという結果になった(図表1)。
図表1 各政党の獲得議席
データソース:NHK
自公両党の合計議席が過半数に届かない結果は、政治情勢の不安定化につながる恐れがある。石破首相が目標議席を「自公で過半数」と定めた理由は、予算案や法案、衆院のみに認められている内閣不信任決議の可決には過半数の議席が必要だからだ。今後、追加公認などの多数派工作をしても過半数を確保できず「少数与党」となった場合、国会運営において野党の協力を取り付ける必要が生じ、政策の推進力が落ちることが予想される。過去には、1993年衆院選で与党・自民が過半数を割った際に非自民・非共産の8党派による細川護熙政権が生まれたが8カ月で退陣した。後を継いだ羽田孜政権では、社会党が連立から離脱して少数与党になり64日で崩壊した。
石破首相が就任から戦後最短で衆院解散した今回の衆院選では、一つの議席を争う小選挙区における野党間の候補者調整はほとんど進まなかった。289ある小選挙区のうち与野党が事実上一対一で対決する構図となったのは1割台半ばにとどまった。前回2021年の衆院選での与野党対決は5割程度で、今回は政権への批判票が分散しやすい構図だったといえる。それにもかかわらず与党が大幅に議席を減らした背景には、自民派閥の政治資金パーティー裏金事件をはじめとした「政治とカネ」をめぐる問題が大きく響き、国民の不満や不信をぬぐえなかったことがあったとみられる。
パーシャル連合の公算が大きい
与党が衆院の過半数を確保できなかったことを受け、今後の石破首相の政権運営シナリオを整理したものが図表2である。
図表2 今後の政権運営シナリオ
DTFA Institute作成
まず、石破首相が自ら掲げた目標議席に届かなかった責任をとり、辞任するかどうかが注目される。だが、衆院選から一夜明けた28日に開いた記者会見で、首相は「国民の批判にきちんと厳粛に適切に応えながら、現下の厳しい課題に取り組み、国民生活と日本を守ることで職責を果たしていきたい」と述べ、続投の意欲を表明した。
石破首相が続投する場合、衆院選後30日以内に開かれる特別国会で首相に指名される必要がある[i]。過半数を超える議席を獲得した野党各党が野党第一党の立憲・野田佳彦代表に投票すれば野党連立政権が発足することになるが、その可能性は低そうだ。
仮に石破首相が衆院で首相に指名されて第2次石破内閣を組閣できた場合、次のポイントとなるのは、少数与党としてどのように政権運営の舵とりを担っていくかだ。政府・与党は、物価高対策や光熱費の負担軽減策を盛り込んだ経済対策を11月半ばに取りまとめる方針を示している。その裏付けとなる2024年度補正予算案を審議するため、11~12月に臨時国会を開く。予算は衆参両院の過半数以上の賛成で成立するが、与党が衆院の過半数を確保できていないため、先述の通り石破首相は予算成立のために野党の協力を得る必要が生じる[ii]。
その際に考えられるシナリオとしては、
I. 少数与党政権:パーシャル連合(部分連合)として、一部の野党が個別政策において与党と協議し、合意した予算案や法案については賛成する
II. 新・連立政権:現在の自公連立の枠組みに新たに一部の野党が加わり、衆院の過半数を確保する
の2つがある。だが、衆院選後に主要野党の幹部は連立入りに否定的な発言をしているため、与党が模索するのはパーシャル連合となる公算が大きい。
政権与党がパーシャル連合で一部の野党に協力を求めると想定すると、連携の候補に挙がるのが国民民主党と日本維新の会だ。これまで両党は、政府与党に是々非々で対峙する「現実路線の野党」という立場をとってきた。特に国民民主は、2022年度当初予算に賛成している(図表3)。当初予算案は、政権の新年度における政策の妥当性を問うもので、その賛否は党の立ち位置をはかる重要な意思表示とみなされている。政府の当初予算案に野党が賛成に回るのは44年ぶりで、極めて異例の対応だった。今年はじめには与党と国民民主の3党の実務者による政策協議も行われている。与党にとって国民民主との政策連携は他党に比べてスムーズに行うことができることができるだろう。
図表3 直近の国民民主と維新の予算案への賛否
データソース:国会会議録
積極財政、金融緩和の継続路線が強まるか
仮に、国民民主または維新が政府の予算案や法案について賛成する場合、政府・与党は野党の主張を一定程度受け入れざるを得ない。石破首相は28日の会見で、「(野党の)政策について、私どもの足らざるところ、改めるべきところは積極的に取り入れていきたい」と述べ、野党との政策協議に臨む方針を示している[iii]。
パーシャル連合の枠組みが来年の通常国会でも維持されれば、補正予算案が主なテーマとなる臨時国会とは異なり、従来の自公政権にはなかった政策の打ち出しもあり得る。そこで、国民民主と維新の経済政策のスタンスをまとめたものが図表4となる。
図表4 国民民主と維新の主な経済政策に関するスタンス
データソース:選挙ドットコム 衆院選2024
国民民主と維新の経済政策に関するスタンスは非常に近いことがわかる。これらの主張を踏まえたうえで、バーシャル連合が実現した場合、企業活動に関わる主な経済政策への影響を考察した。
I. 石破首相の経済政策スタンスは、従来経済成長より財政再建に重きを置いていたが、首相就任で一旦は持論を封印し、経済成長を重視する岸田政権路線を踏襲した。景気浮揚に積極的な国民民主または維新との政策連携が進めば、その路線はさらに強固なものになるだろう
II. 金融政策をめぐっては、国民民主は「高圧経済」を政策理念に掲げ、維新も金融緩和を支持している。パーシャル連合の下では日銀の政策正常化が遅れるとの見方が強まりそうだ
III. 国民民主は今回の選挙で「手取りを増やす」というストレートなスローガンで躍進した。維新も訴える消費税減税は現実的ではないが、その他の減税政策は検討項目として与党が協議の俎上に載せる可能性があるだろう
IV. 賃上げ減税の拡充も注目される。国民民主が選挙政策集に盛り込み、石破首相も自民党総裁選での公約としている。年末にかけて政府・与党がとりまとめる2025年度の税制改正大綱がポイントとなりそうだ。また、防衛増税については国民民主、維新の両党とも反対の立場をとっており、財源確保の議論が先送りされる可能性が高まる
V. 原発政策については、両党とも再稼働や新増設に賛成の立場をとっており、前政権が道筋をつけた原発の最大限の活用が引き継がれることになりそうだ
一部報道によると、石破首相は政権維持に向けて国民民主に協力を呼び掛ける意向を周囲に示したという[iv]。国民民主の玉木雄一郎代表も衆院選後のテレビ番組で、「政策で一致するということであれば、与野党問わず協力していきたい」と述べ、パーシャル連合に協力する余地を残している。
今回の衆院選で政権基盤が不安定になった石破首相にとって、政権運営に協力する野党との連携を首尾よく運べるか否かが政策の推進力に直結する。安定した政治なくして持続的な経済成長は期待できない。政治は、今回の衆院選で示された国民の意思を十分に汲みながらも、国内外に横たわる様々な重要課題が遅滞することないよう、建設的な論戦と国会運営に徹することが重要だ。企業もそのような視点から、政局の動向と政策協議の方向性を注意深くウオッチしておく必要があるだろう。
[i] 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名される。指名は単記記名投票で行われ、投票の過半数を得た者が指名された者となる。なお、1回の投票で過半数を得た者がいないときは、上位2人の決選投票を行い、多数を得た者が指名された者となる(参照:首相官邸「内閣制度の概要」)
[ii] 参議院が衆議院と異なった議決をしたときは、衆議院の議決が優先される
[iii] NHK NEWS WEB「【党首発言】衆議院選挙 各党の受け止めは」(2024年10月28日)
[iv] 読売新聞「石破首相、辞任せず国民民主に協力呼びかけ政権維持図る意向」 (2024年10月28日)