成長分野への投資として活用されている国の基金をめぐり、事業のKPI(重要業績評価指標)が一部で策定されていなかったことなどが明らかになり、非効率的な運営が問題視されている。政府内では昨今、基金だけでなく予算事業全般においても政策の実効性を高めることが急務となっている。そこで本稿では、より効果的な政策形成を実現するため、政策分析の専門性を有するデータアナリスト人材の積極的な登用を提言したい。英国政府における分析専門職の活用事例も紹介し、「政策形成の近代化」に向けた具体的な方策を考える。

政府は111112両日、事業の効果検証などを行う「行政事業レビュー」を公開形式で実施した。河野太郎デジタル行財政改革担当相や外部有識者らが出席し、16省の計10事業について検証が行われた※1。行政事業レビューは毎年実施されており、今年の検証で最大の焦点となったのがこの数年で急激に膨れ上がった基金であった。

基金は、中長期的な政策を推進するため、複数の年度にわたって支出できるように国が積み立てる資金である。単年度予算の例外として扱われ、一旦予算措置されるとチェックの目が届きにくく、執行や運用の管理が甘くなるとの懸念がこれまでも指摘されてきた。過去には政府が「創設や既存基金への積み増しは、財政規律の観点から厳に抑制する」との方針を打ち出したこともあった※2。行政事業レビューではこうした課題も念頭に置いて検証され、その結果を踏まえて政府が公表した見直し案が図1となる。

図1 政府が公表した基金見直しの主な検討項目

(出所) デジタル行財政改革会議(※3)より作成

ポイントは、基金事業の成果を測るために目標を明確に定める点だ。基金の終了期限を具体的に定めたうえで、予算編成時に3年程度の短期の成果目標と基金全体としての長期の成果目標を設定することが示された。PDCAPlan-Do-Check-Action)のサイクルを徹底することで、個々の基金について事業が適切に実施されているかをチェックし、執行状況に応じて事業を見直すことで投資効率の向上につなげる青写真を描く。政府は年内にも見直し方針を決定する予定だ。

だが実は、見直し案で示された基金事業におけるPDCAの強化は政府方針としてこれまでも対外的に掲げられている。岸田政権が発足直後にまとめた「新経済・財政再生計画改革工程表2021」では、基金事業のPDCAの枠組みを2021年度末までに構築し、その枠組みに基づく評価を2022年度以降実施するとした。一定の条件を満たす基金については、具体的で定量的な成果指標を用いた政策の立案や、事業進捗の定期的な点検などが明示された※4。今回の見直し案と重複するような内容であるが、行政事業レビューでの検証を通じて浮かび上がったのはPDCAのプロセスの土台であるP(政策立案)が疎かになっている実態であった。2022年度の197事業のうち3割程度で長期の具体的な成果目標がなく、4割程度で終了期限が定められていなかったとの指摘もなされている※5

霞が関が抱える構造的な2つの課題

なぜ、政策立案が粗雑になってしまっているのか。主要省庁の幹部などへのヒアリングを総合すると、以下の2点が大きな要因として挙げられる。

1. 数値目標を設定したものの未達に終わった場合に予算が削られることを懸念して、目標を設けなかったり、恣意的に数値目標を低く算出したりしている可能性がある

2. 社会課題の複雑化に伴う行政業務の拡大と恒常的な人手不足とが相まって、事前評価を含めた丁寧な政策立案を行う余力がない

こうした構造的な課題に対して具体的な対策を講じなければ、外形的にKPIを定めてPDCAの強化をうたっても実効性が担保されるとは言い難い。そこで提案したいのが、政策分析の専門官としてのデータアナリストの登用だ。行政におけるデータアナリストの役割は、統計データの分析や科学的手法から施策の因果効果が認められた根拠(エビデンス)に基き、政策手段の妥当性を定量的に検証することである。

ここからは、政策立案のプロセスを詳述し、そのなかでデータアナリストがどのような貢献を果たせるのか見ていきたい。

多くの政策立案のプロセスは、①現状把握と課題設定②短期・長期での目標設定③目標から遡った政策手段の洗い出し④手段と目標の関係整理(ロジックモデル)⑤データの取得・分析によるロジックモデルの精緻化——という5つの工程に分けることができる(図2)。PDCAサイクルの要諦であるC(検証)の質を担保するためには、P(政策立案)での④と⑤、つまり政策の意思決定におけるロジックを明確にすると同時に精緻にすることが重要となる。だが、政策を検証して次に活かすという文化に乏しい霞が関では、これらのプロセスについて重きが置かれてこなかった。そのため、重要性の認識が浸透しているとは言えず、知見の蓄積も少ないのが現状だ。

図2 政策立案のプロセスにおけるデータアナリストの役割

DTFAインスティテュート作成

先述の一つ目の課題からは、現在の政策形成には官僚個人の恣意性が多分に入り込む余地があることがわかる。一方、データアナリストは政策目標の合理性や政策手段の有効性に関して、科学的に認められたエビデンスなどの定量的な情報を提示することができる。データアナリストが政策立案のプロセスにかかわることは、経験や勘、前例踏襲といった定性的な情報に拠った政策立案からの脱却を促し、意思決定の精度を高める役割を果たすと考えられる。

また、今回の見直し案や改革工程表でも要求のあった「定量的な成果目標・指標」は、事後評価の物差しとなり、その後の予算要求に関係してくるため適当には定めにくい。特に基金は複数年度予算という性格上、中長期的な見通しを予測したうえで設定しなければならず、単年度の予算事業と比較してその難易度はより高まる。そうした条件下で精度を上げるためには、統計的なデータの分析結果などを参考に考案することが有効だ。これらの作業はデータアナリストの専門領域であり、二つ目の課題への解決策にもなり得るだろう。

「政府の近代化」を掲げたブレア政権

政策立案において統計学などの知見を取り入れ、エビデンスに基づいた政策形成を実践している例として英国が挙げられる。英国政府の分析専門官がどのようなかたちで政策立案に関わっているかについて概観することで、日本でのデータアナリスト登用に与える示唆について考えたい。

英国政府では近年、統計的なデータ分析などに専門性を有する人材の積極的な採用が行われている。代表的な分析専門職で各省に配属されている政府エコノミスト(government economist)の人員数の推移をみると、1996年は515人だったが2015年には1,386人まで倍以上に増加した※6。直近では、2017 年からの3年間で50% 以上の増員が行われ、今では政策立案に欠かせない人材として確固たる地位を占めている(図3)。政策分析を担当する専門職として、他にも社会調査専門官(Social Researcher)や統計専門官(Statistician)などが存在する。

図3 英国政府におけるエコノミストの推移

(データソース) The Government Economic Service(※7)

英国では「官僚が助言し、大臣が決める」という政策形成の原則があり、官僚に期待されているのは中立的な助言を行うことと、大臣に真実を伝えることとされている。分析専門官はそうした助言に科学的な根拠を与える重要な役目を担っていると言える。例えば各省の政府エコノミストは、予算要求する際の企画書(business case)に添付する費用便益分析計算書を作成して、政策効果を定量的に示す作業を担う。各省の大臣は、頻繁にその省のエコノミストのトップである首席エコノミストに諮問を行っている※8

こうした政策形成の方向性を打ち出したのはブレア政権(1997年~2007年)である。それまでの保守党政権にとって代わり「第三の道」を掲げ、教育や医療を中心とした公共サービスについて、市場原理に基づく経済効率を前提としつつ政府の役割を見直す改革を行った。1999年に公表した白書「政府の近代化」(Modernising Government)では、国民から政策への要求がますます厳しくなっているとの認識を示したうえで、「政策は短期的な圧力への対応ではなく、将来を見据えたものであり、エビデンスによって形成されたものでなくてはならない」と明確にうたった※9

ブレア政権の問題意識は、現下の日本政府のそれと通ずるものがあると言える。英国の先例から学べることは、政治の強いリーダーシップの下、時代の要請に応じた形に官僚機構を変革したという点であろう。ただ、日本で最初から英国のように全省庁にデータアナリストを配属することは現実的ではないと思われる。まずは国家戦略に関係する基金や成長戦略に資する政策など、予算規模が大きく政権の優先度が高い事業から、小規模でもあっても始めていくべきだ。昨今の予算編成では、政治的なメッセージを打ち出すことを重視して需要を過大に見積もり計上するケースが散見されるが、そうした規模ありきの予算への抑制にもつながっていく話である。

民間人材の活力を取り込め

デジタル庁では過去に、政府全体の政策効果を高める目的でデータアナリストの採用を内々に検討したことがある。だが、創設当時は政府全体のDX推進のためシステムエンジニアの採用を優先する必要があり、データアナリストの採用を見送ったという。しかし、発足から2年が経ち、今は立ち上げ期から次のフェーズに入っている。デジタル庁でもう一度、データアナリストの採用を検討してはどうだろうか。

民間人材を対象とした民間調査では、「官公庁の仕事に興味がある」と68%が回答し、民間企業と官公庁との間を行き来する「リボルビングドア(キャリアの回転ドア)」がキャリア形成において有効だと答えたのは83%にのぼった。興味がある分野については「デジタル化」が最も多く39%であった10。政府はこうした好機を活用し、政策形成過程においても民間人材の活力を取り込んでいくという発想が求められている。

データアナリスト登用によって政策がより定量的な事実に基づいて形成され、意思決定の説得性や透明性が高まることは、企業にとっては政策の予見可能性が高まることを意味する。政府の各種施策を活用し、新規の事業や研究開発にあたる企業は勿論のこと、基金から弾力的な財政支援を受ける企業にもメリットがある。経済界からも政府に対して従来の定性的な政策立案からの脱却を積極的に求めていくべきではないだろうか。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

<参考文献・資料>

※1 内閣官房行政改革推進本部「行政事業レビュー 秋のレビュー(秋の年次公開検証)」

※2 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2014

※3 デジタル行財政改革会議「デジタル行財政改革のこれまでの取組等について」

※4 経済財政諮問会議「新経済・財政再生計画改革工程表2021

※5 日本経済新聞電子版「政府基金、成果目標を義務に 財政資金投入は最大3年分」20231212

※6 Professor Sir Charles Bean, “Independent Review of UK Economic Statistics”, March 2016

※7 The Government Economic Service, The GES Strategy 2021-24, April 2021

※8 独立行政法人経済産業研究所「RIETI Policy Discussion Papers」『英国におけるエビデンスに基づく政策形成と日本への示唆-エビデンスの「需要」と「供給」に着目した分析-』内山 融、小林 庸平、田口 壮輔、小池 孝英 2018 12

※9 The Prime Minister and the Minister for the Cabinet Office, Modernising government”, March 1999

10  株式会社ビズリーチ「ビズリーチ 官公庁への転職意欲に関するアンケート」 2021118

永田 大 / Dai Nagata

研究員

朝日新聞社政治部にて首相官邸や自民党を担当し、政治・政界取材のほか、成長戦略やデジタル分野、規制改革の政策テーマをカバーした。デジタルコンテンツの編成や企画戦略にも従事。2023年5月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画した。
研究・専門分野は国内政治、成長戦略、EBPM(エビデンスに基づく政策形成)。

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