金融機関でしばしば起きるシステム障害は、影響範囲の広さから社会的な注目を集めやすい。事後の対応として再発防止策は欠かせないが、障害をゼロにすることは現実的に難しい。金融機関のシステムの問題に限らず、誤りが起こさないことを過度に重視すれば、新しいことに挑戦するイノベーションのエネルギーはそがれてしまう。社会全体として、誤りはどこかで起きるという前提に物事を考える意識変革が必要ではないだろうか。

金融機関は一定程度のシステム障害が発生した場合、金融庁に事象を報告する。同庁が20236月に公表した「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」(※)によると、2022年度は約1900件の障害報告があった。平均すると、15件になる。金融庁への報告には至らない分も含めれば、さらに多くなるだろう。金融機関のシステム障害は珍しいどころか日常的に発生している。

障害発生の原因として最も多いのが「管理面・人的要因」で全体の36%を占める。やはり人が関わる以上、ミスはどうしても起こる。同レポートに記載された障害の個別事例集を見て気になったのは、「サービス復旧手順や対応体制を構築していなかった」、「再開に向けたルールが整備されていなかった」など障害の発生を想定していなかったことが疑われるケースだ。

「日本社会は誤りや問題が起こらないようにする対策は手厚いのに、発生した場合の対策は手薄ではないか」。日本在住歴の長い米国人経営者からもこんな声を聞いたことがある。課題をあげつらっているわけではなく、安全や正確さは日本社会の強みであり、これに問題発生を想定した対応力が加われば日本はより良くなるという示唆だった。

事後対応を想定したリスクマネジメントが重要

誤りや問題は起こるという前提に立つというのは、誤りなどをただ許容すべきだというわけではない。取引先に損害が出た場合の補償など様々なリスクを想定し、影響を最小限に抑える備えをしておくことが重要であろう。金融庁は今回の分析レポートで障害発生後の対応の好事例を記載するようになっており、社会の意識が変わっていく萌芽ととらえることができるのではないだろうか。

間違いが起こることを前提とすれば、イノベーションを生みだす環境づくりにもプラスだ。「失敗は成功のもとである」という有名なことわざを改めて噛みしめたい。

関連リンク: 危機対応|フォンジック&クライシスマネジメント|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

<参考文献・資料>

(※)金融庁「金融機関のシステム障害に関する分析レポート」(2023630日)(https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230630-2/01.pdf

奥田 宏二 / Koji Okuda

主任研究員

大学卒業後、日本経済新聞社入社。経済部の記者として、コーポレートガバナンス・コードの制定や働き方改革、全世代型社会保障改革などを取材。金融や社会保障分野を長く担当した。フィンテックのスタートアップ企業を経て、2023年1月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。自治体の少子化・人口減少に関する分析や政策提案業務などに従事。

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