DXブームが沈静化し、関心が低下している一方で、日本企業のDXは遅れている。企業の現場では「DX疲れ」「変革疲れ」が起きている。DXの本質は「変化の速い経営環境に適応するため、デジタルを活用して顧客に価値を提供し続けること」であることを考えれば、DXの重要性は常に高く、多くの企業が継続して能力の維持向上に取り組むべきであろう。持続可能なDXを実現するためには、①デジタルという手段に注力せず目的を明確にする、②経営のコミットメント、③ITベンダーに依存しすぎない、この3点は必要不可欠と考える。

DXブーム終焉で見えてきた課題

最近、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞く機会が少なくなった。数年前にメディアが盛んに取り上げた頃と比べると社会的な関心も薄れている。経済産業省が最初の「DXレポート」(※1)を公開したのは20189月で5年前である。この5年間のDXというワードのトレンドをみると「図 1 「デジタルトランスフォーメーション」の検索状況」の通りとなる。20214月にピークを迎えその後下落し、2023年に入ってからは2018年頃と同程度に戻っている。現在では、生成AIがメディア的なブームの主役の座を獲得しているが、IT関係者からは「企業ではDXがトーンダウンしGX(グリーントランスフォーメーション)に関心が移っているようだ」という意見も聞いた。

図 1 「デジタルトランスフォーメーション」の検索状況

一方で日本企業のDXは海外より遅れていることが指摘されている。IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」(※3)でDXの取り組み状況を見ると、日本全体では69.3%の企業がDXに取り組んでいると回答しているが、従業員規模別では中小企業におけるDXの取組の遅れは顕著であることが見て取れる(図 2 DXへの取組状況(従業員規模別))。

図 2 DXへの取組状況(従業員規模別)

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表する世界デジタル競争力ランキング(※4)では日本は22年調査では29位であり、アジアで比較してもシンガポール4位、韓国8位、中国17位でこれらの国より低い水準にある。日本ではDXがブームになっていたにもかかわらず、デジタル競争力はむしろ年々下がっているということになる。特に、人材のデジタル・技術スキルやビジネスの俊敏さといった項目では63カ国中で最下位水準である。

図 3 世界デジタル競争力 日本のランキングの推移

DXが遅れているまま関心が下がっていることには危機感を覚えるが、加熱したDXブームにも問題があった。DXというワードはかなり多義的に使われている。最初の経産省のDXレポートは「2025年の崖」をキーメッセージとして、老朽化したレガシーシステムがDXの推進を阻んでいることに警鐘を鳴らした。この影響で、導入時期の古いERPの入れ替えを中心としたレガシーリプレイスがDXであるという風潮が高まった。今現在でもDX=レガシーリプレイスという解釈が散見されるほどである。

続くコロナ禍では、テレワークの実施やいわゆる“ハンコレス”化などが急速に進んだが、今度はデジタルツール活用がDXとして盛んに語られることとなった。レガシーからの脱却もデジル活用(デジタイゼーション)もDXにとっては重要な要素ではあるが本質ではない。しかし、それらを喧伝するDXブームに乗り、そこで力尽きてしまった、または関心を失ってしまった企業は多いのではないか。

DX疲れ」「変革疲れ」はなぜ起きるのか

DXの本質とは何か。本稿では「変化の速い経営環境に適応するため、デジタルを活用して顧客に価値を提供し続けること」であると位置づける。その観点では、DXの重要性は常に高く、多くの企業が持続的に能力向上に取り組むべきであろう。

今起きている「DX疲れ」「変革疲れ」の原因は何だろうか。「DX疲れ」は、様々なDX施策に取り組んできたが成果が出ないという状態が想定される。例えば、現場から多くのプロジェクトが提案され進行しているが優先順位や進捗がわからなくなっている、DX推進担当部門や担当者を置いても経営者のコミットがなく従業員もついてこない、RPARobotics Process Automation)、ワークフロー、電子決裁などのツール導入に終始している、といった状況が考えられる。

一方、「変革疲れ」は、DXは変革であるという理想のもと、新サービスの創出やビジネスモデルの転換といった施策に取り組んだがどれもPoCProof of Concept:実証実験)に終わり実装に結びつかない、というものである。DXは変革であるという理解は間違ってはいない。しかし、現業の範囲での業務プロセス改善や意思決定の迅速化は必要だが、新サービスや新ビジネスモデルの創出ほど大胆な変革を目指すのはハードルが高すぎる、というのが多くの企業の本音ではないだろうか。一足飛びに変革を目指そうとして、AIやメタバースなど先端技術の活用にチャレンジしてPoC倒れになったり、新サービスのアイデア実現に取り組むがなかなか実現しなかったという事態も起きている。

上述の、DXよりGXに関心が移っているという状況の背景には、成果の出ないDXより、温室効果ガスの削減など実施効果がわかりやすく、投資家などから評価を得られるGXのほうが取り組みやすい、という本音がのぞく。

成功企業の取り組みから見るDX推進の要点

「変革ができていない、変革せよ」という号令をかけ続けるだけでは笛吹けども踊らず、になるのではないか。ブームが終わった今では、より企業にとって実感のあるメッセージが必要であろう。

現在、DXで着実に成果を上げている企業と、DXへの関心を失っている企業の二極化が起きている。成功企業の取り組みを調査すると、一定の共通点が見えてくる。1)デジタルという手段と変革の目的を混同しないこと、(2)経営がコミットすること、(3ITベンダーに依存しすぎないこと、この3点は必要不可欠と考える。

まずは、企業の将来像を描き変革の目的を明確にすることが起点となる。現状への危機感は表裏一体となるだろう。変化が激しく不確実性が高い時代に対応していく必要性は誰もが認めるところだ。自社の存在意義は何か、5年先、10年先の企業の成長や存続を考えたときに現状維持でよいのか。市場では競合企業がDX企業になっているかもしれず、新たなプレイヤーが登場しているかもしれない。課題がわかれば何に取り組むべきかが見えてくる。必ずしも新サービスや新ビジネスモデルの創出である必要はない。

次いで、経営者のコミットメントは不可欠である。DXは企業戦略であり、現場の困りごとを解決するだけでは本質にたどり着かない。日本企業は現場の力が強い傾向はあるが、ビジョンの策定、ロードマップの設定、人や予算などのリソースの配分などはトップが道筋を示す必要がある。また、経営の意思が浸透することで組織全体が同じ目的に向かって動き始めることができる。

ビジョンやロードマップが定まれば実行のフェーズに移る。デジタル活用が手段ではなく目的化していないか、必要な施策は何か、評価や見直しの仕組みはできているか、それらを検討し判断する必要がある。データ活用もDXの中核となる要素だが、ITベンダーでDXの支援を行うリーダーからは、「既存のデータをただ可視化する程度ではベテランの勘と経験には勝てない」という興味深い意見を聞いた。より精緻なデータの分析や従来とは異なる角度での分析、別のデータの組み合わせなどにより、インサイトを得ることこそが重要であるという。レガシーシステムがデータ活用にとって阻害要因になっているなどの状況があれば、レガシーリプレイスが検討の俎上に載るだろう。

付言すると、現在ブームとなっている生成AIも、目的と混同しないことが重要であろう。生成AIで文章作成や要約などが容易になったとしても、それ自体が意思決定の高度化や迅速化などにつながるわけではない。

ITベンダーに依存しすぎるべきではない、とはITベンダー側からも重点ポイントとして挙がったポイントである。DXの議論ではユーザ企業は内製化を進めるべきとよく言われる。この場合、アプリ開発やデータ解析など手を動かす部分以上に、DXの旗振り役となる人やチームを社内で育成することが重要となると考える。システム周りはITベンダーに丸投げしているという企業も少なくないが、自社が何をしたいか分かっていればベンダーとの関係性も変わってくる。プログラミングができる人がいない、データサイエンティストがいないのでDXが進められない、という発想はDXの誤謬である。

DXが変化への対応であれば、終わりはない。複数のDX成功企業から、「長年の経験で、一朝一夕に成果が見えるものではないと承知している」「DXという言葉が出始める前からデジタル活用や変革に取り組んできた。ようやくその成果が見え始めたところだ」といった声を聞いた。「疲れる」ようであれば体力不足ということになろう。持続可能なDXを推進するためには、これらの要点を企業文化に取り入れた基礎体力の高い組織への進化が求められる。

   

<参考文献>

(※1)経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(20189月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.htm

 (※2)Googleトレンド https://trends.google.co.jp/trends/

 (※3)情報処理推進機構「DX白書2023」(20233月)
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf

 (※4)IMD Digital World Digital Competitiveness Ranking
https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness-ranking/

小林 明子 / Akiko Kobayashi

主任研究員

調査会社の主席研究員として、調査、コンサルティング、メディアへの寄稿などに従事。IT業界及びデジタル技術を専門とし、企業及び自治体・公共向けIT市場の調査分析、テクノロジーやイノベーションについての研究を行う。2023年8月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。

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