人口減少で国内市場が縮小に向かうなか、日本企業は新たな成長機会を海外に求めるしかない。だが、旧式の「日本流経営」を押し付けても現代世界では通用しない。活路は、日本企業が不得手とされる「ダイバーシティ」にある。松本一則 デロイト トーマツ グループ クライアント&インダストリー リーダーによる逆転のパースペクティブ。

まず、日本の現状と今後の見通しについて、危機感を込めて意識合わせをしておきたい。

日本人の人口は2009年をピークに減り続けている。20237月に総務省が発表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によれば、11日時点の日本人人口は122423038人で、前年から約80万人の減少。特に今回は、初めて47都道府県すべてで減少となったことが大きく報じられた。国立社会保障・人口問題研究所が4月に発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、2056年には1億人を切り、2070年には9000万人を下回る見通しだ。

人口急減時代に社会システムをいかに適合させていくか、企業戦略や産業政策をいかに再設計していくか、公共サービスをいかに維持していくのか――。極めて難しい課題の数々に、日本は直面している。

人口減は市場縮小に直結する。業種・業態による違いはあろうが、総体として見れば、国内市場だけに頼っていれば日本企業の収益は頭打ちとなり、ついには減少に転じてしまうだろう。新たな成長を求めるならば、海外市場に打って出ていかねばならない。

ただし、世界の経済的序列は大きく変貌しつつある。日本のGDPは今のところ世界3位だが、数年後には成長著しいインドが追い抜いていくだろう。米国、中国、インドが3大経済大国として突出する一方、新興国の躍進で日本は順位をさらに落としていくことになる。加え、かねてより日本の一人当たりGDPの低さが体質的課題として指摘されてきた。このまま座していれば、成長性に乏しく、生産性の低い、さらには給料レベルも凡庸な「経済中位国」へまっしぐらである。

ニッポンのグローバル・トランスフォーメーションを急げ

日本の新成長戦略の基軸となるのが、言わば「シン・グローバル展開」であることは論を待たない。問題は、今までの考え方とやり方を根本的に変えなければならないことである。

端的に言えば、「強大な国家経済力にものを言わせた、日本人による、日本のための、日本流管理経営」から「ビジョン・パーパスに共鳴して集まった、多様なグローバル人財による、より良い世界づくりのための、ダイバーシティマネジメント」へのトランスフォーメーションである。その議論を通して、日本企業の進むべき針路が見えてくるのではないだろうか。

私自身はかつて総合商社で世界中を飛び回っていた。良いモノ、安いモノを探し、交渉し、調達し、日本市場に送り込むという仕事。先進国ばかりではない。治安が悪く常に身の危険を感じる国、ビジネス慣習・文化が全く違うため信用・信頼の基盤をゼロから築くことから始めなければならない国・・・。厳しさもあったが、「世界第2位の経済大国ニッポン」という看板を背負ってグローバルな商流を作り上げていくことは商社マンとしての醍醐味だった。当時はこうした「ニッポン押し」が効果的だったし、世界の果てまで駆け巡る日本人のタフな商魂が経済成長の原動力でもあった。

だが、新興国と呼ばれた国々が経済発展を遂げ、相対的に日本がポジションを下げる中で、「日本人が出て行って、日本人のやり方で、日本人が全部やる」という日本人ファーストのアプローチは通用しなくなっている。逆に、相手国に対して日本がどのような価値を提供できるのかが厳しく問われることになる。

本物の「ダイバーシティ」で世界に先駆けよう

私の結論は、DEIDiversityEquity & Inclusion:多様性、公平性、包括性)への取り組みで世界に先駆けることが日本企業の活路を開く、ということだ。近未来シナリオはこうだ。

人種、国籍、性別、信条に関係なく世界中から優秀人材を集める。それぞれの文化を学び合い、もちろん日本の文化も知ってもらい、多様なアイデアを出し合い、議論し、トライ&エラーを重ね、新しい価値を生み出していく。究極のDEIワークプレイスを世界中に展開することによって、「日本企業は働きやすい」「日本企業ならスキルアップできる」「日本企業では実力次第で昇進できる」「日本企業でぜひ働きたい」という人材吸引力となり、多様性が日本企業の競争力の新たな源となる。

ここでカギを握るのが「パーパス」である。経営理念、ビジョン、ミッションと言い替えてもいい。

気を付けなければいけないのは、「日本が」とか「日本のために」といった色合いが濃過ぎるとグローバル人材からの共感を得られないかもしれないということだ。例えば「日本と世界の多様なナレッジを掛け合わせることで世界をより良くする」といった世界視点のメッセージを発信したい。

ここまで読んでいただいて、こう感じられる方も少なくないと思う。

“ダイバーシティは、日本企業・日本社会が世界から大きく後れを取っているテーマであり、DEIで日本企業が世界に先駆けるのは難しいのではないか?”

確かに、女性活躍については欧米から何周も遅れている。日本におけるDEIの取り組みはまだ緒に就いたばかりであり、中にはスローガン止まりで実質が伴っていないものもあるのが実態かもしれない。

だからと言って、日本国内での変革を待っていたら、世界はどんどん先に進んでしまい、決して追いつけなくなってしまう。まずは海外の拠点や活動を最優先したダイバーシティ戦略の推進を提案したい。

もう一つ、あくまで個人的な意見ではあるが、世界の対立・紛争の原因となることが多い文化、宗教、イデオロギー、人種といったものに対して、日本人は比較的ニュートラルであり、異なるものを受け入れる一定以上の許容度を持ち合わせている。言語の壁には苦労させられるが、基本的にどこの国の人とでも仲良くなれる。日本のパスポートは世界最強と言われ、ビザなしで渡航できる国・地域の数で世界でもトップクラスである。多くの国々が日本との良好な関係を望んでいる。日本にはDEIを推進していく素地がある。

繰り返しになるが、人口減少ニッポンの活路は世界にある。もっと海外に出て、各国・各地の文化と生活を学ぼう。より良い世界のために日本ができることは何かを考えて、理念に賛同してくれる仲間を世界中から集めよう。そうした多様性に満ちた仲間が集まる「場」をつくることが、日本の新しい役割であり、強みとなる。

ダイバーシティこそが日本新成長の活路である。

     

(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート 編集長/主席研究員)

松本 一則 / Kazunori Matsumoto

デロイト トーマツ グループ クライアント & インダストリーリーダー
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 経営会議議長

大手総合商社、中堅監査法人を経て、現デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(DTFA)に入社。製薬・ヘルスケア業界における国内外M&A案件のアドバイザリー業務他、知的財産に関する評価業務、知的財産に関連する各種コンサルティング業務などを多数手がけてきた。
DTFA COOとしてM&A事業部統括を経て、2019年6月から2022年5月までデロイト トーマツ グループ COO、2022年6月より現任。

日本公認会計士
薬剤師


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