宇宙・安全保障フロントライン――米国からの報告
目次
■ハイレベルセミナー概要
主催 デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社
開催日 2023年6 月8日(木)
会場 デロイト トーマツ グループ本社(東京都千代田区)
参加者 宇宙・安全保障に関連する政府関係者・民間企業職員
米国における宇宙・安全保障環境について
Roger Hill
Principal for Government & Public Services Industry
US Defense, Security and Justice, Sector Leader
Deloitte US
世界は現在、複雑で困難な地政学的課題に直面している。
経済、政治、産業、社会、環境など様々な領域において、前例なき状況に直面し、新たなリスクが生じている。これらの課題の中には、インド太平洋地域における地政学的競争の高まりがある。2021年に創設された太平洋抑止イニシアティブ (PDI: US pacific Deterrence Initiative) は、日本を含む地域の同盟国との協力を強化し、共通の安全保障努力を進めてきた。
先端技術の開発競争が激化し、安全保障領域への適用が加速していることは、多くの課題も提示している。人工知能、機械学習、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、バイオテクノロジー、オープンソースのデータは、新しいイノベーションを推進するために安全かつ確実に使用されなければならない。
重要な進展は、2023年1月に「日・米宇宙協力に関する枠組み協定」が署名されたことである。この協定は平和的宇宙協力の基準を定めている。今後、宇宙分野での協力が加速することが期待される。
デロイトUSの政府および公共サービス(Government & Public Services)業務は、連邦政府の防衛および法執行機関に幅広いサービスを提供している。具体的には、サプライチェーンの強靭化、リスク分析、クラウドおよびその他の情報インフラの強化、予算管理、従業員の変革、大規模なIT運用能力の向上、サイバー防御、などである。
公共セクターにおけるサイバー環境について
Gordon Hannah
Principal for Government & Public Services Industry
Defense, Security and Justice Sector
Deloitte US
グローバルな観点から、サイバーセキュリティ領域には次のような課題がある。
- インターネットが安心・安全に利用できるよう、米国政府は重要な情報の保護に注力している。
- インターネット上には多くの悪意のある脅威が存在し、サイバーリスクは増加し続けている。
- 政府機関は、サイバー脅威を含めた変化を的確に把握し、対応していく必要がある。
- 重要インフラやサプライチェーンのサイバーセキュリティ確保も重要な課題となっている。
- 誤った情報や偽情報の蔓延は、社会のあらゆる側面に大きな課題をもたらしている。
- サイバーセキュリティに精通した人材を雇用し、訓練できるかどうかがカギである。
サイバー事件の8割以上が人的ミスによるものであり、民間企業や政府機関に対するサイバー攻撃の約60%が個人情報の窃取を目的としているという調査結果もある。
デロイト グローバルが実施した「2023 Global Future of Cyber Survey」によると、
- 多くの民間および公共部門の組織は、目標を達成するためにサイバー技術への依存度を高めている。
- 適切なスキルを持つ適切な人材が不足している企業は約8割にのぼる。
- サイバー領域におけるガバナンス、責任の明確化は大きな課題である。
- 約60%の組織 (政府と企業の両方) がサイバーセキュリティ予算を増やしている。
- サイバーインシデントの増加を想定し、対策を講じる組織が増えている。
過去10年間、サイバー保護に対する主流のアプローチは、できるだけ高いファイアウォールを構築し、そこを通過するものを監視することだった。しかし、これはもはや効果的な戦術ではない。個々のアプリケーションのセキュリティを向上させ、サイバー脅威を積極的に監視する「アクティブモニタリング」の重要性が高まっている。
デロイト グローバルでは、25,000人以上の実務者がサイバートレーニングを受けており、サイバー、クラウド、AIをはじめとする先端テクノロジーに多額の投資を行っている。
Srini Subramanian
Principal for Government & Public Services Industry
Leader for Global Risk Advisory
Deloitte US
サイバーは国防領域だけでなく、経済活動にも影響を及ぼす可能性がある。米国では、連邦政府、州政府、地方政府を狙ったランサムウェア攻撃が増加している。サイバーセキュリティの重要性に対する認識は、州レベルでも急速に高まっている。
デロイトUSでは、州政府におけるサイバーセキュリティ分野のリーダーを対象とした調査を2年ごとに行っている。2022年に発表した報告書 「State Cybersecurity in a Heightened Risk Environment」 は、COVID-19後のサイバーセキュリティリスクを分析したものだ。
こうした調査・分析の積み重ねが非常に重要であると考えている。まず、連邦政府や州政府が直面している課題を理解するのに役立つ。そして、あらゆる分野のサイバー専門家の関心を集め、問題意識を共有することで、適切な投資を促すことにつながる。実際、我々は州政府におけるサイバーセキュリティ資金の不足が重大な課題であると指摘してきたのだが、米国議会は最近、州や地方政府への大規模なサイバーセキュリティ投資に踏み切った。
この調査で最も重要なトピックの1つは、サイバー人材プールの拡大である。州政府や連邦政府のサイバー人材は深刻な不足状態にある。硬直的で時間のかかる雇用プロセス、低い報酬水準、業務の柔軟性の欠如、等々、課題は多い。官民が協力して、サイバー人材プールを拡大しなければならない。