「宇宙」と「防衛」を、日本の新しい成長戦略の要とする――。確固たる信念に基づき、新会社「デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社(DTSS)」が発足した。11人のリーダーたちの提言メッセージをまとめた。

提言1 国防力アップと産業力アップ、協働・連携・共有で二兎を追うべし

前田 善宏 / Yoshihiro Maeda

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 CEO

デロイト トーマツは日本資本のプロフェッショナルグループであり、経済インフラ機能である会計監査を業務の一部として担っている。日本企業、日本社会の発展に貢献することを最優先の責務としている。

世界では地政学的リスクが高まっている。これまでの常識が必ずしも通用しない不確実性に対応するため、いろいろな部分に修正がかけられている。成長のための変革と創造が最重要課題である日本にとっては、これを好機と捉えて前に進みたい。

安全保障・防衛は非常にセンシティブな領域であり、様々な課題が手つかずのままになっている。例えば防衛装備品の調達は国内民間メーカーに開発・製造・修理が発注されてきたが、受注企業の利益率が低く抑えられ、ビジネスとしての魅力が低い構造が長く続いた。市場が国内に限られ生産量が少ないので、量産効果を上げることもできない。このような状況では、民間企業側の自助努力には限界があり、イノベーションを起こそうという意欲も高まらない。重要部品を製造する下請け町工場が廃業してしまうという事業承継問題も深刻化している。

サイバーディフェンスに関しても、最先端技術の開発・活用が最重要課題だが、官側のリソースは必ずしも万全ではない。内部人材の拡充を急ぐとともに、省庁間での連携、民間企業との連携を密にすることが不可欠だ。欧米では当たり前に行われていることだが、日本では前例がないという理由でなかなか進展していないのが実状だ。

まさに、日本の課題の縮図がここにある。解決のためには、日本の総力を挙げて取り組む必要があるのではないか。防衛分野と民生分野を完全に分離するのではなく、重なり合う部分について協働・連携・共有を前提に生産性と技術力を上げる努力が必要なのではないか。国防力を上げると同時に日本の産業を活性化する――大胆に二兎を追う戦略が必要なのではないか。

そんな問題意識から、デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社の設立に至った。斬新な発想と幅広い知見を結集してお手伝いさせていただきたい。

提言2 防衛×民間で新たな成長エコシステムの構築へ

松下 欣親 / Yoshichika Matsushita

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 CSO

安全保障、経済安全保障が活発に議論されているが、そこに「産業」の視点を入れ込みたい。様々な先端技術が集積する防衛の場を借りて先端技術開発に挑み、産業をトランスフォームする。民間の知恵を使って防衛をトランスフォームする。サイバーや宇宙といった新たなフロンティアにも官民が連携して挑戦し、新しい市場を切り拓いていく。

言わば「防衛×民間のオープンイノベーション」が、これからの日本を成長させる推進力の一つになるはずだ。そのエコシステムを構築するためには、防衛と民間を様々な接点で繋ぐ必要がある。防衛三文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)などを参考にしつつ、何度も議論を重ねた末に、我々は8つの接点(アジェンダ)を設定した。オープンイノベーション産業技術基盤サプライチェーン官民連携サイバーセキュリティデジタル組織・人材宇宙である(1)。特に上段の4つが密に連関している。既存の防衛装備品メーカーだけでなく、これまで防衛とは縁の薄かった大企業・中小企業、新進気鋭のスタートアップなど、様々なプレーヤーを巻き込み、オープンイノベーションのエコシステムを作りたい。先行する米国、豪州のデロイト・メンバーファームとも連携し、その知見を日本で活かしていく。

デロイト トーマツ グループの礎を築いた等松農夫蔵(とうまつ・のぶぞう)は、海軍で主計少将を務め、戦後、監査法人トーマツを立ち上げた。当時の日本の会計監査を欧米の水準に引き上げることが、日本企業の成長・発展のために不可欠という信念に基づいたものだった。その精神を引き継ぐ我々が、現代日本の成長・発展のために貢献していきたい。

提言3 デュアルユースで防衛分野のオープンイノベーションを促進せよ

松岡 巌 / Iwao Matsuoka

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「オープンイノベーション」 リード

防衛装備品に関しては、要求される技術水準が上がり、研究開発が長期化する傾向にある。大企業だけでなく、中小やスタートアップも連携したオープンイノベーションによって先端領域に挑み、開発速度を上げる必要がある。

要となるのは「デュアルユース」という考え方だ。防衛用と民生用の両方で使うことでオープンイノベーションの機会が大きく広がる。例えば、AI(人工知能)やドローンがその先例だ。NATO(北大西洋条約機構)ではスタートアップへの投資条件としてデュアルユースを課している。

こうした状況の中、我々は①防衛スタートアップのアクセラレータープログラム、②「防衛」をテーマとしたピッチイベント、③大企業を巻き込んだオープンイノベーション・プロジェクトなどを推進していく。大企業とスタートアップの連携を支援している当グループのデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社での知見や基盤を活かしていきたい。

提言4 防衛産業再編成で日本の技術開発力の基盤強化を

吉田 航 / Ko Yoshida

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「産業技術基盤」 リード

防衛装備品を開発・製造する企業群の維持・育成・新規参入促進が差し迫った課題である。究極的には、既存の大手プレーヤーから防衛事業を切り出し、スタートアップなどとも統合し、防衛産業の再編成を目指すべきである。

世界には、防衛に特化した巨大企業が数多く存在する。個別・分散型の日本勢は、国内市場に閉ざされている現状のままでは、技術的にもコスト的にも太刀打ちすることが難しいのが現実だ。2023101日には、「防衛生産基盤強化法」が施行され、製造設備の国有化という救済措置も選択肢も視野に入る。日本の防衛技術が枯れてしまうかどうか、瀬戸際の攻防が続いているのだ。

デロイト トーマツ グループは再編のスペシャリスト集団を擁し、組織の構築・強化に関するナレッジを蓄積している。防衛産業の再編・統合の支援を通して、日本の技術開発力の新たな基盤づくりに貢献したい。

提言5 サプライチェーン見える化と官民役割分担の深化で装備品可動率UP

谷本 浩隆 / Hirotaka Tanimoto

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「サプライチェーン」 リード

防衛装備品の可動率は低い。サプライチェーンが十分に管理しきれていないことが要因の一つである。部品が製造中止になっていたり、会社そのものが無くなっていたり、海外政府の輸出規制方針の変更によって部材が入手困難だったりなどのトラブルが頻発し、代替メーカー探しや再設計・作り直しに膨大な費用と時間がかかる。また、長期的な需要予測・在庫管理・契約方法にも少なからず課題がある。

まずは、サプライチェーンの見える化が必要だ。そのための方策として、例えばデロイト オーストラリアが開発した「サプライチェーンイルミネート」という可視化ツールを日本仕様にローカライズして提供する用意がある。また、「成果保証契約(Performance-based logisticsPBL)」の推進も支援したい。これは、官と民がKPI(成果目標)に合意しておけば、民側はある程度の自由度を持ち包括的にロジスティクスを効率化できるようにするための仕組みである。官民役割分担の深化によって防衛サプライチェーンを強化させたい。

提言6 待ったなしの官民連携――任せる覚悟、やり切る責任で

片桐 亮 / Ryo Katagiri

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「官民連携」 Co-リード

防衛関連官庁には、新しい事業を企画・立案し、予算を確保し、適切に執行する一連のプロセスを総合的に担える人材やナレッジが不足している。官側リソースの限界は近いのだが、民間リソースを思い切って活用するという決断には至っていない。

官側に必要なのは、民間の力を信頼し、プロジェクトの企画・立案の段階から任せる覚悟ではないか。一方、民間はプロジェクト全体の企画から実行、成果にまで責任を持つことが求められる。防衛分野の官民連携は世界の潮流であり、日本の防衛産業が世界市場に打って出るためにも必須の要件となる。

気を付けなければならないことは、官から民に一定のリスクおよび責任が移転される場合、責任分界点が曖昧になりがちで、経費処理を含め、透明性・公平性に関わる部分で問題が起こりやすい。変革によって派生するマイナス面にもきめ細かく目を配りながら、官民連携の新しい基盤づくりに貢献したい。

提言7 防衛自前主義との決別は、部外力の最大活用から

西丸 諭 / Satoshi Nishimaru

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「官民連携」 Co-リード

防衛の自前主義を適切に見直す必要がある。この界隈では「部外力」と呼ばれる民間の力を最大限に活用することで、官が本当にやるべき仕事やプロジェクトに注力できる態勢を早期に確立すべきである。

そのためには、まず官側が、部外力に任せられる部分、任せるべき部分を切り出す「業務の棚卸」が不可欠である。本当に大事なところに予算を割り当て、業務効率の最大化を図る。民側は国防に関わる機密情報を扱えるように「セキュリティクリアランス」の条件を満たさなければならない。調達参加資格や評価制度などの仕組みを整備する必要もある。

デロイトのグローバルネットワークには各国の先行事例に関する知見が蓄積されている。世界のベストプラクティスやトレンドを調査したうえで、日本において実現可能な施策に落とし込み、提案していく。

提言8 アクティブ・サイバー・ディフェンスの議論に真正面から向き合うべき

伊藤 益光 / Masumitsu Ito

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「サイバーセキュリティ」 リード

サイバー空間は陸・海・空・宇宙に続く「第五の戦場」と言われる。まず敵国に関する諜報活動を行い、仕掛けを埋め込み、時が来たら一斉にサイバーオペレーションを発動する。物理的な戦闘とのハイブリッド活用で効果を最大化する。

真っ先に攻撃されやすいのは、電気・ガス・通信・金融・交通などの重要な社会インフラである。日本でもこの4月に「防衛産業サイバーセキュリティ基準」の民間企業への適用が開始された。AIを活用したサイバー作戦も増えている。フェイク画像を作って偽情報をばらまくディセプションやサイバープロパガンダは、もはや架空のものではない。アクティブ・サイバー・ディフェンス(能動的サイバー防御)の議論にも真正面から向き合うべきだ。

デロイト トーマツ グループはサイバー専業の部隊(デロイト トーマツ サイバー合同会社)を擁しており、世界最高水準のナレッジと教育ノウハウなどがある。日本のサイバーセキュリティ水準の底上げに貢献していく。

提言9 防衛DXは民間以上に丁寧に精緻に

竹内 倫太郎 / Rintaro Takeuchi

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 「デジタル」 リード

一般論ではあるが、官庁のデジタル化は民間企業に比べて後れを取っている。その中でも防衛と警察はその傾向が顕著であると言われている。人命に関わる緊張感に満ちた現場オペレーションが業務の中心にあるため、単にデジタル化するだけでは役に立たないからだ。

防衛のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、システムでやるべきこと、人間による判断を残すべきことを切り分け、厳しい現場において人間が高度な判断を迅速に下せるよう支援できるものでなければならない。それ故に、民間DXを超える丁寧さと精緻さが要求される難易度の高いアジェンダとなる。

デロイト トーマツ グループが民間DXのご支援を通じて得た重層的なナレッジとノウハウを、防衛DXのご支援に最大限活かしていきたい。

提言10 「適所適材」の発想で組織・人材の基盤固めを

上杉 利次 / Toshitsugu Uesugi

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 人事担当執行役/「組織・人材」 リード

日本の防衛分野に新風を吹き込み、変革を推進するためには、人的基盤の強化が欠かせない。官の内側では人材の採用と育成、外側との関係性においては部外力活用と官民連携が重点ポイントとなるが、どれを回していくにも組織体制の整備・拡充が前提となる。

現在動いているオペレーションは切れ目なく確実に実行できるように維持しなければならない。一方、官民連携などにおいては大胆な挑戦が求められる。旧と新、静と動のバランスを取りながら変革の実を取るのは容易なことではない。

従来の「適材適所」ではなく、「適所適材」の考え方が肝になるのではないか。まずはこれからの時代における防衛組織の機能や役割(適所)を再検討したうえで、内部から、そして外部から適材を集めて配置するのである。防衛に関係するすべての人々がやりがいを持ち続けられる環境づくりに貢献したい。

提言11 宇宙でのビハインド、オールジャパンで挽回しよう

長山 聡祐 / Sosuke Nagayama

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社 COO/「宇宙」 リード

客観的に見て、宇宙分野で日本は世界に後れを取っている。防衛も民生も、である。世界のスピード感、チャレンジのスケールは日本をはるかに凌駕している。防衛と民間を峻別し、パワーを分散させていれば、後れは広がるばかりだろう。まず、この現実をしっかり直視すべきである。

宇宙のような最先端チャレンジ領域については、官と民、防衛と民生という垣根を思い切って越えるべきだ。「デュアルユース」を前提としたオープンイノベーションの発想で取り組み、日本全体でリスクを取り、新しい産業創造に挑戦する。これが日本新成長のための選択肢なのではないか。

宇宙分野のリーダーは米国である。そして、オーストラリアは国家戦略として宇宙に注力し始めている。両国デロイトのカウンターパートからは、日本の積極的な関与と参入に期待する声が根強い。日本が得意領域を活かし、宇宙分野の発展に無くてはならない存在となるよう、支援させていただきたい。

      

◆◆◆ デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社の概要 ◆◆◆

社名(和文) デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社
社名(英文) Deloitte Tohmatsu Space and Security LLC. (略称:DTSS)
設立年月日 2023年3月31日
資本金 3000万円
代表者(職務執行役) 前田 善宏
本社所在地 東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビルディング
事業内容 宇宙および安全保障に関わる企業や官公庁に対して専門性の高いサービスを高セキュリティの環境下で提供する
体制 デロイト トーマツの5事業のうち、主にコンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、リスクアドバイザリーに属するメンバーで発足し、他の2事業とも連携していく
ニュースリリース  https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20230331.html

水野 博泰 / Hiroyasu Mizuno

主席研究員

日経BPにて日経コミュニケーション、日経E-BIZ、日経ビジネスの記者・編集者・ニューヨーク支局長、グロービスにて広報室長、英字新聞ジャパンタイムズにて取締役・編集主幹、MM総研にて主幹研究員、東京都政策企画局にてオリンピック・パラリンピック海外戦略広報担当などを歴任。現在、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にてシニアヴァイスプレジデント。電気工学修士、経営学修士(MBA)。

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