骨太の方針と「国民所得倍増計画」~労働市場改革の共通点と現代への示唆
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国民所得倍増計画は、池田勇人内閣が1960年に閣議決定した長期の経済計画である。10年以内に国民総生産や国民所得を2倍以上にするなどの目標を掲げ、日本経済は急成長した。計画期間は高度経済成長の時代にあたる。
その国民所得倍増計画には当時の雇用問題に関し、こう記されている。「わが国に残る終身雇用制、特殊な退職手当制度、年功序列型賃金制度等の諸要素が労働力移動を困難にしているという事情はこの際とくに強調しておく必要がある」(第2部政府公共部門の計画~第4章社会保障の充実と社会福祉の向上)。この一文は、現代でも通じるだろう。
当時、労働移動を促そうとした背景にあったのは産業間の賃金格差だ。再度、国民所得倍増計画の文言を引く。「高度の成長にもかかわらず産業の二重構造と賃金格差は、必ずしも解消の道をたどってきてたとはいえない」(同上)。
1960年時点でのこうした問題意識は、その後の経済成長によっていったん下火になる。企業が定年まで雇用を長期保証する雇用慣行は「企業戦士」を大量に創出し、日本型の雇用は世界的にも強みとみなされる時代に入った。バブル崩壊後に日本型雇用の課題は指摘されながらも、成功体験を経て一旦確立した制度や慣行を大きく変えるまでには至っていない。
政府は「リ・スキリング」、「ジョブ型」、「労働移動の円滑化」を進める
こうした古くて新しい雇用の課題を2023年の骨太の方針でフォーカスしたのはなぜだろうか。理由の一つとして、諸外国に比べ賃金の伸びが長期で低迷していることがあげられる。骨太の方針を議論する経済財政諮問会議では、諸外国と比べた日本の賃金の伸びの低さが有識者から取り上げられてきた。国民所得倍増計画時の問題意識が国内産業間の賃金格差だったのに対し、現代は内外賃金格差への意識が強い。解決策の一つとして、年功型の賃金から米欧で定着している職務(ジョブ)型の賃金の導入を企業に促そうとしている。
職務(ジョブ)型の賃金の導入と「リ・スキリングによる能力向上支援」、「成長分野への労働移動の円滑化」をセットにし、政府は三位一体の労働市場改革と位置付けている。これらはいま働いている人が主眼にあるが、これから社会に出る若者も包含し制度設計を進めるべきだろう。
ジョブ型は職務が明確であり、その職務を遂行するスキルを持つ人を採用する。現状は年齢が若ければ就職で有利になるケースが多いが、そうした状況は今後、変わる可能性が高まる。ジョブ型が定着する国では、若者の方が失業率は高い傾向にある。社会に出る際、何らかのスキルが求められるという前提に立てば、在学時の職業訓練教育の充実が求められる。
若者の「スキリング」も重要
学生への職業訓練という観点で、国民所得倍増計画に学ぶ点は大いにあると考える。「産業の高度化につれて既存労働者に対する専門的な技能、知識を与えるための再訓練とともに、新規労働力に対する養成訓練の拡充強化を図らなければならない」(第2部政府公共部門の計画~第3章人的能力の向上と科学技術の振興)と記されており、現代においても重要なメッセージである。リ・スキリングだけでなく、「スキリング」も重要であり、大学などでの教育を見直す必要が出てくるだろう。日本発のイノベーションを生み出すために、デジタル分野などで最先端の知識を持つ若い人材を育てていく重要性は高まっている。それぞれパーツで議論するのではなく、生涯を通じた教育訓練を体系立てて検討すべきではないだろうか。
<参考資料>
経済企画庁編集「国民所得倍増計画」付経済審議会答申(昭和36年4月1日発行)
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(令和5年6月16日閣議決定)(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf)