2023年3月のシリコンバレーバンクの銀行取り付けによる破綻以降、米国を中心に銀行の信用不安が続いている。2023年5月に開催された、G7財務大臣・中央銀行総裁会議などの、最近の国際会議での議論を踏まえると、今回の銀行取り付けについて、国内外で今後何らかの追加の対策が行われる可能性がある。日本においては、SNS・デジタルバンキング時代に則して、これまでのリスク管理や規制監督の常識であった「預金の粘着性」の高さ、つまり預金は流出しにくいという前提を見直す必要がある。

米国のスタートアップ金融の中核を担っていたシリコンバレーバンク(SVB)が、信用不安が顕在化してからわずか2日で多額の預金が流出し、破綻に追い込まれた。銀行取り付け騒ぎは米国だけでなく欧州にも飛び火し、銀行破綻や身売りが相次いでいる。そして現在も米国を中心に、銀行の信用不安がくすぶっている。

米連邦準備制度理事会(FRB)が20234月に公表した報告書1によると、今回のSVB破綻に至った要因として、SVB自身のビジネスモデルやリスク管理に問題があったことに加え、SVBの経営を規律付けすべき立場のFRB自身の規制監督の不備が指摘されている。

しかし、破綻の最終的な引き金は、SNSやデジタルバンキングにより、信用不安の拡散や預金引き出しが高速かつ容易になったことである。かつてないスピードと規模での信用不安情報の拡散と預金引き出しという、現代版の銀行取り付けが発生した。

国内外で制度の見直しが始まっている

2023年5月に開催され、日本が議長国を務めたG7財務大臣・中央銀行総裁会議をはじめ、金融規制監督に関係する最近の国際会議では、今回の銀行取り付けを巡って活発な議論が続いている。その中では、現状の「金融システムが強靭であることを再確認」しつつ、規制監督などの「ギャップに対処」、つまり不十分な部分を埋めるという方針が示されている。今後、国際金融規制策定の枠組みである、金融安定理事会やバーゼル銀行監督委員会で必要な検討作業が行われる見込みだ。

前述のFRBの報告書のとおり、SVBの破綻には、財務の脆弱性など同行固有のリスクが顕在化した部分も多く、日本を含むその他の国々には直接関係しない論点も多い。実際、20234月に日本銀行が公表した最新の金融システムレポート3からは、SVBのような財務上の脆弱性を抱えている日本の金融機関は現時点では存在していないことが見て取れる。

一方で、国を挙げてスタートアップ育成やDXに力を入れる日本において、破綻に至る原因が何であれ、SNS・デジタルバンキングによる急激な預金流出というのは、徐々に蓋然性の高いシナリオになる可能性がある。

日本においては「預金の粘着性」を再考することが重要

危機の震源地となった米国では、国際的な議論を待たずに、銀行の規制監督主体の一つである連邦預金保険公社(FDIC)が中心となって、まずは預金保険制度の機能強化が検討されている。

預金保険制度とは、銀行破綻から個人などの小口預金者を保護する制度で、例えば日本においては普通預金の元本1000万円とその利息分がこの制度によって保護されている。また、破綻時にも保護されるという安心感によって、銀行取り付けを未然に防いでいる面もある。

FDICは、現状25万ドルに設定されている保険でカバーされる預金額の上限の一律引き上げや全額保護ではなく、資金決済用の口座について全額を預金保険保護の対象とすることを提案している4。これは、預金を保護しすぎると、銀行のモラルハザードを引き起こすからだ。

なお、日本では、すでに利息の付かない決済用預金は全額保護されている。急激な預金流出の備えとして預金保険制度をさらに強化する必要性は薄い。

一方で、SNS・デジタルバンキング時代に則して、預金の粘着性を再考することは日本においても必要だ。預金の粘着性とは、今回のような銀行取り付け騒ぎが発生した場合にどの程度預金が流出するかといった、預金の流動性の高低を示すものである。

前述の預金保険制度で保険対象となる小口預金は、粘着性が高いとされている。一方で、今回のSVB破綻から、保険対象外の大口預金は粘着性が低いことが改めて判明した。また、今回のSVBのケースではスタートアップであったが、特定の業種・業界で、資金調達難という外部環境の変化や、日ごろから緊密な情報共有を行うエコシステムを有するという、特有の内部環境によって、預金の粘着性が大きく変わりうることも判明した。

したがって、過去の実績よりも預金の粘着性が低下する可能性を考慮した、より保守的なリスク管理や規制監督が今後必要になっていくだろう。

流動性比率規制や流動性ストレステストが見直しの候補

具体的には、流動性比率規制における預金流出率の引き上げや、急激な預金流出を想定した流動性ストレステストが必要となり得る。

金融機関の手元資金(流動性)を巡る規制(流動性比率規制)では、預金保険対象外の個人やスタートアップを含む中小企業の預金流出は30日間で10%とされている。今回の一連の銀行不安では、1日で2桁を超える割合の預金が流出した場合もあり、甘い規制となってしまっている可能性がある。

現状の規制枠組みでも、過去に10%を超える預金流出が見られた場合などに、10%を超える水準に引き上げることを検討する仕組みが存在する。いきなり規制水準を引き上げるのではなく、預金の属性に応じて粘着性を改めて検証し、流出率を10%以上に保守的に見積もった際にどの程度流動性がタイトになるか、試算してみることは有用だ。

急激な預金流出シナリオに基づいた、ストレステストや緊急対応訓練も重要だ。

手元資金が急激に枯渇するなど不測の事態に耐えられるかを確認する、流動性に関するストレステストは金融機関内部や金融規制監督当局との対話の中で日本でも行われている。しかし、こうしたストレステストでは、通常、金融市場からの資金調達が困難になるといった、預金以外の流動性のタイト化を念頭に置くケースが多いと考えられる。これまでの想定とは異なる規模・スピードの預金の急激な流出にどの程度耐えうるか、その場合にも流動性不足を穴埋めするための日本銀行からの資金調達に必要な担保は十分か、などを改めて点検する必要がある。

また、中央銀行からの緊急の資金調達に関して、SVBは、担保差し入れの事務手続きに手間取り、一定程度の担保があったにもかかわらず、資金調達できないまま無秩序な破綻に至ったとみられる。日本では定期的にこうした緊急対応の訓練がなされており、急激な預金流出が発生しても円滑に対応できるとみられる。あえて述べるのであれば、複数の銀行への同時多発的な取り付け騒ぎといった、銀行だけでなく金融庁や日本銀行のキャパシティにも負荷がかかる局面を想定して、対応可能かどうかをあらかじめ確認しておくことも有効なのではないか。

   

参考文献・資料

  1. Board of Governors of the Federal Reserve System, Review of the Federal Reserve’s Supervision and Regulation of Silicon Valley Bank (2023).
  2. 財務省「G7 財務大臣・中央銀行総裁声明(仮訳)」2023513日(https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/g7_20230513_1.pdf2023523日最終閲覧)。
  3. 日本銀行「金融システムレポート(20234月号)」83頁(2023421日)。
  4. Federal Deposit Insurance Corporation, Options for Deposit Insurance Reform (2023).

久光 孔世留 / Marcel Hisamitsu

主任研究員

政府系金融機関にて、欧州・新興国を中心とした海外経済や国際金融市場の分析のほか、関西を中心とした地域経済調査に従事。また、バーゼルIIIなどの国際金融規制策定やASEAN+3などの国際金融協力に関わる業務にも従事。2022年6月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。経済学修士。
(肩書はレポート発表時点のものです)

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