目次
サミットに先立ち、G7は4月末に群馬県高崎市でデジタル・技術大臣会合を開催し、責任あるAIとAIガバナンスの推進を柱とした声明を採択した。特に、昨年11月の対話式AI「ChatGPT」の公開以来、急激に利用が進む生成AIについて、早急に議論の場を設けることに合意した。
G7メンバーでは、AIに対する法整備に積極的な欧州諸国と、厳格・包括的な法規制に慎重な日本で隔たりが目立っている。その中、大臣会合が示した「生成AIに関する議論開始」は、一つの妥協点として評価できるだろう。サミットは、大臣間の合意を受け、生成AIに関する協議の枠組みや作業部会の設置に踏み込めるかどうかが焦点になる。
G7によるAIルール協議が進む中、本稿ではデジタル政策フォーラムが4月25日付で公表した提言に着目したい。提言は法規制に加え、ソフトローの国際整合性を確保する重要性を訴えており、今後のルールづくりで参考にすべき内容になっている。
規制、法律のみではない
デジタル政策フォーラムは2021年、中村伊知哉iU(情報経営イノベーション専門職大学)学長、村井純慶応大学教授らを中心にデジタル政策の議論の場として発足した。「COVID-19の蔓延でDXが世界的な課題となっている中、⽇本は、デジタル敗戦をも認識することとなった」(設立趣意書)との危機感から、積極的に意見を打ち出している。
直近の提言「デジタル政策におけるグローバル連携の実現」は、G7大臣会合、サミットを前に発出され、「サイバー国際ルールの整備」を柱の一つに据えている。
そのポイントは、①サイバー空間における法規制の国際的整合性の確保、②ソフトローの適用の国際的整合性の確保—の2点である。特にソフトローについては、規制は法律のみではないと指摘し、共同規制や民間部門による自主規制の重要性を挙げた。
提言は、データローカライゼーションの禁止やアルゴリズムの検閲の禁止等のサイバー空間の課題全般を念頭に置いたものである。その中でも、生成AIの急激な発達・利用拡大は不確実性が高く、透明性確保に向けた取り組みが急務となっている。AIのルールづくりにおいて、デジタル政策フォーラムが示した法制度・ソフトロー両面の整備が求められている。
民間指針、「公平」や「透明性」「プライバシー保護」が柱
それでは、ソフトローの整備は、どのような内容が求められるのか。政府や公的セクターによるガイドラインのほか、産業界での自主規制が有力な手法である。その自主規制を個別企業が進める上で根幹となるのが、AI活用に対する企業の姿勢を明確化した指針や倫理方針、プリンシプル(原則)である。
国内では大手のIT企業やデジタル企業、金融機関等が指針や原則を策定しており、一部の企業はコーポレートガバナンスの一環として、その内容を公表している。
公表された有力5社の指針を整理すると、AI活用の目標や原則となる項目として、①社会貢献、②人間中心での活用、③ステークホルダーとの対話——等が並んでいる。これらをかみ砕くと、「持続可能な社会の構築に向け、人間(ユーザー)の尊厳を優先し、補助する形で、株主や顧客等多様なステークホルダーの理解を得て、AIを活用すること」になる。
また、具体的にAIを活用する際の規範となる項目としては、「プライバシー保護」「公平・公正」「透明性・説明責任」等を抽出できる。いずれも当該企業のガバナンスやパーパスに沿った内容となっている。(表)
AIのビジネスへの実装の可否や範囲設定は、先端ツールの導入というレベルを超え、経営戦略に属する領域となりつつある。生成AIがさらに普及すれば、企業はこれまで以上にAI活用に関する取り組み(AIガバナンス)を明確にすることが求められる。指針や原則の策定が有効な選択肢になる。有力5社の指針にある主要項目は今後、指針の策定を検討する企業の参考になるだろう。
経済団体の関係者によると、一部の企業は生成AIの利用拡大を受け、指針を運用する際の基準や細則等の更新を検討している。AIの発達・普及は加速しており、指針を策定済みの企業も内容や運用体制を絶え間なく見直すことが求められそうだ。
<参考資料>
G7デジタル・技術大臣会合「閣僚宣言」、「閣僚宣言(仮訳)」(2023年4月30日)
デジタル政策フォーラム「デジタル政策におけるグローバル連携の実現 (提言)」(2023年4月25日)