オーストラリア政府は2018年に「宇宙庁」を創設、中長期戦略「Advancing Space Australian Civil Space Strategy 2019-2028」を策定して宇宙産業の振興に注力している。在日オーストラリア大使館商務部、デロイト オーストラリアから宇宙ビジネス関係者を招き、日本とオーストラリアの連携について議論した。その骨子をレポートする。

■セミナー概要
主催   
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
開催日  2023414日(金)
会場   デロイト トーマツ イノベーションパーク
プログラム https://tohmatsu.smartseminar.jp/public/seminar/view/37538

開会の挨拶

Elizabeth Cox
オーストラリア大使館
公使(商務)

宇宙分野における日豪パートナーシップが拡大している。2020年には、オーストラリア宇宙庁とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が宇宙利用に関する協力覚書に署名した。2024年には、JAXAが計画している火星衛星探査カプセルの打ち上げについても日豪が連携していく予定である。こうした連携は、まだ始まりに過ぎないが、共通の価値観によって支えられており、今後さらに発展させていきたいと考えている。

オーストラリアの宇宙政策及び産業について

浜田 智也
オーストラリア大使館 商務部
商務官

オーストラリア大使館 商務部及びオーストラリア貿易投資促進庁(オーストレード)が、貿易・対豪投資などをサポートしている。東京と大阪にオフィスがある。宇宙のほか、農業、インフラ、医療、資源エネルギーなど幅広い分野をカバーしている。

オーストラリアの宇宙政策については、2018年に宇宙庁(ASA: Australian Space Agency)を南オーストラリア州アデレードに創設、2019年にAustralian Civil Space Strategyを発表した。これは、オーストラリア政府の宇宙10か年戦略であり、宇宙ビジネスの経済規模を3倍に、宇宙産業に関係する労働人口を約2万人増やすことを目標としている。現在の宇宙産業の規模は約51億豪ドル、宇宙産業従事者は約17000人である。

注力する分野(National Civil Space Priority Areas)は、以下の7つ。特に(1)(2)(6)(7)は優先度が高い。

(1) Position, navigation and timing
(2) Earth observation

(3) Communications technologies and services
(4) Space situational awareness and debris monitoring
(5) Leapfrog R&D
(6) Robotics and automation on Earth and in space
(7) Access to space

宇宙庁ができる前は、宇宙関連の企業数は400社だったが、現在は618社に増えている。オーストラリアは各州に研究機関があり、基盤がしっかりしている。宇宙産業の出版物、論文は多く、宇宙への注目度は非常に高い。

宇宙産業への投資(2022年)は、半分が民間、半分は政府によるもので、Access to Space分野への投資が多い。日本のスタートアップ企業がオーストラリアに拠点を開設するという案件も出てきている。20235月には日豪宇宙ビジネスマッチングイベントを開催予定だ。

日本とオーストラリアの連携による宇宙ビジネスの可能性

Jason Bender (右)
Partner, Space Leader
Deloitte Australia

Dr. Geraldine Baca Triveno
Director, Space Systems
Deloitte Australia

防衛とビジネスの観点から、多くの国々が宇宙開発競争に参加している。宇宙は、人類の次の目的地となりつつあり、今後10年間で、より多くの人々が宇宙で働き、暮らし、遊ぶようになる。そのために、想像を超える規模のインフラとサービスが必要になる。我々デロイト オーストラリアは、専門チームを結成し、クライアントを支援していく。投資活動、衛星打ち上げ、輸送、情報収集などの全方位をカバーする。宇宙ビジネスを通して、人々の生活を向上させ、既存の産業を変革していくことに貢献していきたい。

現在のオーストラリアの宇宙産業は約51億豪ドルだが、10年後には120億豪ドルにまで成長する見込みだ。オーストラリア政府は、宇宙産業に対して多額な投資をしているため、JAXAだけでなく、民間企業にもビジネスチャンスがある。金融、鉱業、農業、ライフサイエンス、ヘルスケアなど、様々な分野の企業が規模を拡大するチャンスである。

宇宙ビジネスを成功させるためには、単独ではなく、コラボレーションが必要である。既に、多くの組織、国が協力・連携関係を構築している。オーストラリア宇宙庁は、打ち上げ能力を向上させること、宇宙産業の市場規模を拡大することに力をいれている。日本からの技術投資に対する期待は大きい。オーストラリアの国家優先分野は7つあるが、 (1) satellite capabilities, (2) robotics and space exploration, (3) space medicine& life sciences, (4) access to space――の4つは、日豪間で商業的、政治的に連携している重点分野である。

オーストラリア政府は、新しいイノベーションを支援するために多額の投資を行っている。デロイト オーストラリアとしては、例えばオーストラリアの宇宙ビジネスのサプライチェーンに参加したい企業を支援することができる。製造工場から打ち上げ施設までどのように輸送をするのか、システムを管理するのか、海外から調達するためにはどのような手続きが必要になるのか――等々、オーストラリアの施設・設備を利用する場合の条件などを、すべて検討することができる。

最後に、デロイト オーストラリアは「GRAVITY Challenge」という宇宙産業の事業開発に特化したアクセラレーションプログラムを提供している。日本のデロイト トーマツとも連携しているので、参加をお待ちしている。

オーストラリアとの連携による新たなビジネスのポテンシャル

長山 聡祐
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
 パートナー
デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社
 執行メンバー

日本の宇宙ビジネスの産業規模は、関連する民生機器やエンターテイメントといった波及市場まで含めると、足元の約8.8兆円から、2050年は約32兆円に成長するという試算もある1)

日豪間のコラボレーションモデルには様々なパターンがあり、規模が小さな企業や必ずしも宇宙に関連しない企業でも参画するチャンスが広がっていくと考えている。また、日豪の企業が連携して外部の市場に出ていくといった枠組みを増やすことが、双方にとって大きな成長機会となる。

そこで、「GRAVITY Challenge JP」(グラビティチャレンジジャパン)202211月に立ち上げた。宇宙産業分野で大企業・政府機関とスタートアップ・大学や研究機関などとの協業を支援するアクセラレーションプログラムである。宇宙ビジネスに関心がある日本企業にとって、日本でできることは限られるが、最初から他国に投資・進出するのはハードルが高い。そこで、国内宇宙産業の成長促進のためにも、まずは日本で肩慣らしをして、次のステップで海外に本格チャレンジするという2段ロケット方式の仕組みを提案したい。デロイト オーストラリアが先行したプログラムを日本にも導入した。来年、再来年も実施していくので、ぜひ参加いただきたい。

パネルディスカッションの様子

閉会の挨拶

福島 和宏
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
 代表執行役社長

デロイト トーマツとしての宇宙ビジネスへの取り組みは3つある。

1に、20233月にデロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ合同会社を設立し、関連リソースを一元的に集約した。

2に、デロイト オーストラリアが5年前から実施している「GRAVITY Challenge」を今年から日本でも開始し、宇宙ビジネスに取り組む企業に対してマッチング・連携の場を提供する。

3に、デロイト トーマツ ベンチャーサポートが、宇宙ベンチャーを支援している。

オーストラリアとの連携も含め、支援の幅を広げ、奥行きを深めていきたい。

  

【総評】
連携と挑戦がフロンティアを拓く

3時間にわたるセミナーにおいて、日豪から集まったスピーカー・パネリストが繰り返したのは、宇宙ビジネスにおける「連携」と「挑戦」の重要性だった。情報収集から資金調達、技術開発、打ち上げ、オペレーションに至るまで、単独の企業、単一の国家では何一つ実現できないからだ。

先日、日本のベンチャーが民間初の月面着陸プロジェクトに挑戦したが、残念ながら失敗した。ベンチャー代表は会見で貴重な情報が得られたとし、再挑戦を誓った。失敗を恐れていてはフロンティアを開拓することはできない。失敗を乗り越えるための大きな連携の輪が不可欠であることを印象付けた。

セミナーのQ&Aセッションで「なぜ、日本とオーストラリアなのか?」という質問が出た。これに対して、①距離が近く、時差が少ない、②ハヤブサがオーストラリアに帰還した実績、③複数の発射場が計画されていること、④セキュリティクリアランスを取得しているオーストラリアと組むことで、米国などとの連携にもつながる、等々が挙げられた。宇宙ビジネスにも競争原理は働くが、これまでにはない新たなサプライチェーンの流れをつくる協働(コラボレーション)が重要であることも強調された。

連携と挑戦のための土壌が、確かに整備されつつある。

   

<参考文献>
1) 長期的な宇宙ビジネス市場規模の試算、201931日、NTTデータ経営研究所

水野 博泰 / Hiroyasu Mizuno

主席研究員

日経BPにて日経コミュニケーション、日経E-BIZ、日経ビジネスの記者・編集者・ニューヨーク支局長、グロービスにて広報室長、英字新聞ジャパンタイムズにて取締役・編集主幹、MM総研にて主幹研究員、東京都政策企画局にてオリンピック・パラリンピック海外戦略広報担当などを歴任。現在、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社にてシニアヴァイスプレジデント。電気工学修士、経営学修士(MBA)。

この著者の記事一覧

平木 綾香 / Ayaka Hiraki

研究員

官公庁、外資系コンサルティングファームにて、安全保障貿易管理業務、公共・グローバル案件などに従事後、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。
専門分野は、国際政治経済、安全保障、アメリカ政治外交。修士(政策・メディア)。


この著者の記事一覧