今、日本のトップ企業の深層で3つのトランスフォーメーションが加速している。①産業区分の再定義、②企業間連携の再構築、③社長の再起動――。山は確かに動いている。鹿山真吾 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー 執行役CGO(Chief Global Officer)のパースペクティブ。

日本経済を牽引する代表的企業への経営支援を通して、その「内なる変化」を目の当たりにしている。外側からは明瞭に見えてこないが、激変する経営環境の真っただ中で日本企業は確かに変わりつつある。3つの観点から論じたい。

①産業区分の再定義
あらゆる境界線が溶け落ち、新産業のカタチが形成されつつある

過去何十年も固定化されていた産業区分が壊れつつある。かつて、情報通信やIT(インフォメーション・テクノロジー)は縦割り産業区分の一つだったが、それ自体が領域を拡張しながら社会全体を支えるプラットフォームになった。他の産業でも旧来区分の壁を壊し超え、離れて交わり、くっついて、自分たちが生きていく新領域を再定義しようという動きが活発化している。既に産業区分の枠を飛び出して自己新生を遂げた企業はさらに進化を目指している。後発企業も続々とキャッチアップしようとしている。その勢いは大きなうねりになりつつある。

実は当社にはまだ産業セクターの区分けが残っているが、セクター間の境界線を飛び越えるための様々な「実験」に取り組んでいる。例えば、デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社では、ベンチャーと大企業の事業提携を生み出すことを目的とした「Morning Pitch」をはじめとしたイノベーション創出プラットフォームを提供している。ブランディング、エコノミクス、シナリオプランニング、デジタルプラットフォームの総合実験場として「イノベーション部隊」も結成した。デロイト グローバルでの先進事例はいち早く日本に持ち帰り検討・研究している。ファイナンシャルアドバイザリーを基盤としながらも、その型にはまらない進化のカタチを模索している。

②企業間連携の再構築
1社単独」から「エコシステム・アライアンスによる多方面展開」へ

新しいビジネス領域の創出は、1社単独では限界がある。他社、特に異業種との連携・協力、すなわち「掛け算アプローチ」が戦略の王道である。様々なアライアンス関係を結び、それらの総体としてのエコシステムを構築する。様々なエコシステムがグローバル規模で形成され、さらにエコシステムどうしがアライアンスで結びついていく。「インダストリー」から「エコシステム」へのコンセプト・トランスフォーメーションが既に起こりつつある。

このエコシステム・アライアンスの形成過程でカギとなるのが、各企業が掲げる「パーパス」なのではないだろうか。旧来型産業区分の市場で売り上げ何位かではなく、これからの社会にとってどのような役割を果たしていこうとしている企業なのか、その企業のパーパスがエコシステムの目指すパーパスと共鳴するかどうか――が問われていくのである。

もう一つ、エコシステム形成のカギとして「オーケストレーション」がある。例えば、九州に台湾の半導体企業を誘致し、新しいエコシステム・エリアが形成されようとしている。資本調達に始まって、自治体連携、スマートシティ建設、地方創生プロジェクトの立ち上げ、等々、多岐にわたるプロジェクトが始動しつつある。様々なプレイヤーが参加するプロジェクトを一つのエコシステムとしてまとめ上げ、自律的に発展していくための「場」を造っていくのがオーケストレーションだ。これは、当社が最も得意とするところである。

③社長の再起動
前例踏襲の連鎖は断ち切られ、経営の視座・次元が上がっている

会社は「社長」にしか変えられない。日本ではこれまで、前任社長の方針を踏襲するタイプの社長が少なくなかった。しかし、社長選抜の現場ではそうした前例踏襲の連鎖が断ち切られようとしている。生え抜きの日本人役員ではなく、グローバル選抜を勝ち残った外国人を社長に選ぶ挑戦的な試みも始まっている。

もはや、日本の、日本人による、日本人のための企業がグローバル市場で勝ち抜いていけるような競争環境・市場環境ではなくなっている。「日本企業」という概念を見直すべき時が来ている。社長の再起動によって経営の視座・次元を上げようという動きが確かに出てきていることは、明るい材料である。

(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート 編集長/主席研究員)

鹿山 真吾 / Shingo Kayama

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
執行役CGO
C&I統括
パートナー

2009年、デロイト トーマツ FAS(現・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)入社。2014年から2017年までDeloitte Corporate Finance LLCのニューヨーク事務所に出向し、日米M&A案件統括責任者としてクロスボーダーディールの組成・エクセキューションの陣頭指揮を執る。

入社以前は、大手外資系証券会社3社の各投資銀行本部にてM&Aグループの中核メンバーとして数々の大型M&A案件に関与。

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