政府は少子化対策の一環として、女性の正規雇用比率が20代後半でピークを迎えた後に低下する「L字カーブ」の解消を目指している。子育て期の女性が正社員として仕事を続けるため、①育児・家事の夫婦分担を促進するハイブリッド型勤務の制度化、②男性の「半日育休」の取得可能期間の拡大、③アルムナイ・ネットワークの普及――の三つを提案する。

子育て期の女性が正社員として仕事を続けるにはどうしたら良いかを考えるために、男女の労働時間に関するデータを確認することから始めたい。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本では家事や育児などの無償労働と会社勤めなどの有償労働の合計時間は男女でほぼ差がなかった。ただし、内訳を見ると、男性は有償労働時間が長く、無償労働時間は短い。一方、女性の無償労働時間は長く、男性の5.5倍におよんでいる。日本より合計特殊出生率が低い韓国でも同じ傾向にある。

図1 男女別に見た1日あたりの労働時間(週全体平均)

女性に家事負担が極端に偏重する状態の改善が必要である。子育て期の女性が正社員として働き続けようとすれば、有償労働も無償労働もすべてが女性の負担になってしまうからだ。少子化対策では、女性だけでなく、男性の働き方も合わせて変えていく必要がある。

提案① 育児・家事の夫婦分担を促進するハイブリッド型勤務の制度化を

育児・介護休業法は1992年の施行以来、子育て期でも働きやすいよう短時間勤務や残業免除・残業制限などを進めてきた。

次の改正では、育児休業の推進に加え、出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方を働く夫・働く妻の双方が柔軟に組み合わせて活用できるよう、育児・介護休業法の制度に落とし込むことを提案したい。具体的には、夫と妻が育児や家事を分担しやすくするために、通常勤務、時短勤務、育児休暇に「リモートワーク」という選択肢を加えて制度化するのである。

子育て世帯で特に忙しい時間帯は夕方だ。子どもを保育園などに預けていれば、迎えに行き夕食を取らせお風呂に入れなければならない。多くの場合、妻が時短勤務で早帰りするか、それで回らなければ正社員の道をあきらめてパートや派遣社員を選んで対応している。

そこで、新型コロナウイルス禍で広く活用されたリモートワークを制度的に取り入れることで、こうした状況を変えるのである。例えば夫が午前9時に出社し、午後3時にいったん帰宅し、育児や家事が一通り終わったところで2時間ほどリモートワークする。妻はその日を通常勤務とする。そして、次の日は分担を交代する――。そうした働き方が制度的に担保され、社会的に認知されるようになれば、育児や家事の負担が著しく女性に偏った現状を変えることができるのではないだろうか。

2021年度の雇用均等基本調査によると、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度がある事業者のうち、リモートワークを取り入れているのは全体の1割程度にとどまっている。拡大の余地は大きい。

提案② 男性の「半日育休」を取りやすく

二つ目の提案では、育休から女性が職場復帰しやすくするため、男性が半日程度の育児休業を取得しやすくする仕組みを提案したい。

参考になるのが202210月に創設された「産後パパ育休」(出生時育児休業制度)だ。産後パパ育休は男性向けの育児休業制度の“出生時版”で、子どもが産まれて8週間以内に4週間まで育休を取得できる。通常の育休給付制度は原則「就業不可」だが、産後パパ育休は労使協定を締結している場合に限り一定の制限付きで仕事をすることが認められている。例えば、午前中を休み、午後は4時間働くといったことができる。取得のハードルを下げる一方で、育休が名ばかりにならないよう工夫されている。

この仕組みを、通常の育休制度にも組み込んでみてはどうだろうか。現状の育休給付制度では「原則就業不可」としながらも「就業せざるを得ない状況」での就業は例外として認めている。ただし、予期せぬ事態の発生や災害時などに限っており、使い勝手を改善する余地がある。

例えば、妻が出産から1年後に職場復帰するタイミングで子どもを保育園などに入れる際、最初は短時間の慣らし保育をさせることが多い。そこが夫の出番である。妻の復帰直後の1週間を夫の育休期間とし、子どもを預けている午前中は仕事に当て、午後は自宅で子の世話をする。現状でも夫が通常の育休を分割取得して対応できるが、仕事の都合でまる一日は休めないという場合でも柔軟に対応できる。その間、妻は職場と仕事に慣れることに専念できるようになる。

提案③ 女性の復職「アルムナイ」の普及で後押し

最後に正規雇用の女性が結婚や出産などで仕事をいったん辞めても再び正規雇用として働きやすくするため、企業には中途退職した「アルムナイ(卒業生)」ネットワークの活用を提案したい。

アルムナイ・ネットワークを組織する動きは一部の大企業で始まっており、参考になる事例が多い。ある企業では、アルムナイを登録する仕組みを作り、SNSなどを使って事業の現状や新しく作った従業員向けの制度、求人情報などを発信している。

中途退職者の再雇用制度を導入している企業は一定数あるものの、離職から一定期間が経つとかつての勤務先の状況が分からなくなり、復職のハードルが上がってしまうという課題がある。アルムナイ・ネットワークを活用すれば、こうした課題の解決につながる。

在籍経験のある人材の復帰は、企業にもメリットが大きい。採用のミスマッチが起きるリスクを抑えることができるからだ。働く側にとっても、新しく別の会社に就職するより仕事を始めたときの負担を軽くできる。

<参考資料>
OECD Balancing paid work, unpaid work and leisure
令和3年度雇用均等基本調査

奥田 宏二 / Koji Okuda

主任研究員

大学卒業後、日本経済新聞社入社。東京編集局経済部の記者として、コーポレートガバナンス・コードの制定や働き方改革、全世代型社会保障改革などを取材。金融や社会保障分野を長く担当した。フィンテックのスタートアップ企業を経て、2023年1月にデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。

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