少子化対策が政府の最重要課題にあがっている。岸田文雄首相が2023年1月、年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と発言したことをきっかけに、国会でも活発な議論が交わされている。果たして、少子化を克服するにはどのような対策が有効なのか。「異次元」というキーワードを念頭に、子育て期の働き方のあり方や財源などについて3回連載する。初回は、育児休業(育休)を取得やすい環境づくりのため、送り出す社員の側にもインセンティブを与える仕組みを提案する。

厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、一人の女性が一生のうちに産む子供の数の平均を示す合計特殊出生率は、2021年時点で1.30だった。現在の人口規模を維持するために必要な人口置換水準(おおむね2.07)を下回った状態が長く続いている。出生数は近年、減少幅が大きくなっており、2022年(速報値)は比較可能な1899年以降で最も少ない79.9万人だった。

図1 出生数と合計特殊出生率の推移

少子化が進み人口減少がさらに加速すれば、人手不足の深刻化など経済にとって様々な悪影響を及ぼす。政府は子育て予算の倍増を目指し、対策を打つ方針だ。対策の基本的な方向性として以下の3点を示している。

  • 児童手当を中心に経済的な支援を強化
  • 幼児教育や保育サービスの量・質両面からの強化
  • 働き方改革の推進(育児休業制度の強化)

少子化対策なので、子育て世帯やこれから子育てをしようとする層に対して集中的に支援策を講じられようとしている。

ただし、昨今は誰もが結婚し子どもを持つわけではない。少子化社会対策白書(2022年)によると、50歳時の未婚割合は男性で28.3%、女性で17.8%にのぼる。そして、結婚しても子どもを持たない夫婦もある。

子供を持ちたい層への支援を手厚くしてするためには、そうではない層の理解と協力が欠かせない。両者の考えに大きな乖離があると思い切った少子化対策は進められない。育休推進もそうした視点で進める必要がある。制度をいくら充実させても職場に分断があっては取得は進まない。そうした視点で、日本の育休を俯瞰してみたい。

日本の育休制度に対する国際的評価は高い

意外に思われるかもしれないが、日本の“育休制度”に対する国際的評価は高い。国際連合児童基金(ユニセフ)の報告書「先進国の子育て支援の現状」によると、日本の育休制度は41カ国で1位になっている。高評価のポイントは、父親に認められている給付付きの育休期間が長いこと。

ただし、男性の“育休取得率”は2021年度で13.97%にとどまっている。取得期間は2週間未満が5割を超えており、短期が中心になっている(厚生労働省の雇用均等基本調査より)。

20216月公表の内閣府調査では、1か月以上の育休を取得しない理由として最も多かったのが「職場に迷惑をかけたくないため」で42%にのぼった。次いで「収入が減少してしまうため」が34%、ほぼ同率で「職場が男性の育休取得を認めない雰囲気であるため」と続いた。

図2 1カ月以上の育休を取得しない主な理由

送り出す社員に“育休サポート手当て”を

育休を取りやすくするために提案したいのが、育休する社員を送り出す側にもインセンティブを与える仕組みだ。育休を取得する社員の仕事を、補充無しで同じチームの同僚らでカバーするような場合、その同僚たちに言わば“育休サポート手当て”を支払うのである。

育休中の社員には、通常、給料は支払われない。その分を育休サポート手当ての原資にすれば、企業の総人件費は膨らまない。例えば、6人のチームで月給30万円の社員が育休を取得し、残った5人でその社員の仕事をカバーする場合、一人あたり6万円を上乗せするイメージだ。育休の取得者が一時的に職場を離脱し、業務の負荷が増えた分としての対価を受け取れるなら、より前向きに送り出すことができるのではないだろうか。

実際にこうした取り組みをする企業がある。「育休をまとまった期間取りやすくなった」という声が上がっているという。多くの企業の導入を促すために、こうした仕組みの導入にかかる費用を雇用保険の二事業(雇用安定事業、能力開発事業)から補助することも考えられる。

<参考文献・資料> 
岸田内閣総理大臣年頭記者会見(2023年1月4日)
厚生労働省 令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況
国際連合児童基金 報告書『先進国の子育て支援の現状(原題:Where Do Rich Countries Stand on Childcare?)』 
令和3年度雇用均等基本調査
内閣府 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(2021年6月4日)

奥田 宏二 / Koji Okuda

主任研究員

大学卒業後、日本経済新聞社入社。経済部の記者として、コーポレートガバナンス・コードの制定や働き方改革、全世代型社会保障改革などを取材。金融や社会保障分野を長く担当した。フィンテックのスタートアップ企業を経て、2023年1月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社し、DTFAインスティテュートに参画。自治体の少子化・人口減少に関する分析や政策提案業務などに従事。

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