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大手総合商社は2010年代後半からエネルギー転換とデジタル領域を重要な投資テーマとしてきた。エネルギー分野では脱炭素の潮流を受け、再生可能エネルギー事業の買収や石炭・石油権益の売却などを加速。デジタル領域では新技術やベンチャー事業などに積極的に投資してきた。
23年、最も注目すべき三つのポイントは、(1)サーキュラーエコノミー移行に向けた投資、(2)デジタル事業のM&Aを通じた商社DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速、(3)事業承継問題を背景とした国内企業のM&A——である。
- サーキュラーエコノミー移行に向けた投資
大手総合商社はサーキュラーエコノミーに関わる投資・買収を戦略的な課題に掲げている。エネルギーや資源、素材の循環を推し進めることで、新たな価値創造を目指していく。
これまでの投資・買収の対象は風力発電事業や省エネ・節電管理事業などだったが、これらに「リサイクル事業」が加わる。金属や自動車部品、化学品、肥料などのリサイクルで循環型サプライチェーンを構築できるかどうか。
(2)デジタル事業のM&Aを通した商社DXの加速
産業構造が大きく変わる中、大手総合商社はデジタル技術を活用することによって経営の新境地を拓こうとしている。資源・エネルギー価格高騰による高収益が続き、手元の投資資金は潤沢である。デジタル領域のM&Aやベンチャー企業への投資などを通して、デジタル事業の拡大とともに「自社DX」を急ピッチで推進していくと見られる。ビッグデータや人工知能(AI)を始めとしたデジタル技術を経営に取り入れ、商社ビジネスを進化させることができるかどうか。
(3)事業承継問題を背景とした国内企業の買収
特に日本国内では、後継者不在のオーナー企業に対する戦略的な買収が加速する可能性がある。この領域ではプライベートエクイティ(PE)ファンドが存在感を高めているが、商社が本格参戦することで事業承継問題に一石を投じることになるかもしれない。
- 中長期課題:グローバルな人財争奪戦に勝ち残れるか?
商社の競争力の源は、昔も、今も、これからも「人財」である。VUCA(変動、不確実、複雑、曖昧)の時代において、人財の重要性はさらに高まっている。日本の商社に限らず、世界中の企業、組織、政府がこぞって優秀な人財の獲得でしのぎを削っている。
求められる人財像は大きく変化している。かつては「有名大学卒エリート」といった一様性が重視されたが、昨今ではDEI(多様性、公平性、包括性)が採用の最重要キーワードになっている。人々の価値観が多様化し、それを前提とした社会・世界が創られようとしている中で、商社という事業モデルも核心的な適応が迫られているのである。しかも、グローバル基準で。
日本商社の命運は、ここにかかっていると言っても過言ではない。
(協力=DTFA商社セクター・チーム)