国内でのプライベートエクイティ(PE)ファンドによる投資はさらに活況になると見られる。不透明な金利・経済環境でも、大企業によるカーブアウトやオーナー企業の事業承継に関するニーズは底堅く、ドライパウダー(待機資金)は潤沢であるためだ。

  

米欧など海外系の大型PEファンドが日本企業への投資を始めて約20年が経過した。PEは企業の経営改善や成長促進で成功例を生み出し、2010年代には大企業のカーブアウト(非中核事業の売却)、事業承継での投資を加速した。新型コロナウイルス感染拡大では、M&A(合併・買収)の動きが鈍った企業に代わり、存在感を発揮した。運用資金の増加を受け、一部の米系PEファンドは2010年代後半以降、米国に続き日本でもスタートアップ企業に対するグロース投資(成長株投資)に乗り出している。

23年、最も注目すべき三つのポイントは、(1)底堅いカーブアウト・事業承継のニーズ、(2)転換を迎えた金融政策・変調が予想される経済、(3)スタートアップ市場低迷でグロース投資に変化が起きるか――である。

1)底堅いカーブアウト・事業承継のニーズ

PEファンドによる買収はコロナ禍でも堅調に推移した。背景にあったのは、①企業の選択と集中に伴うノンコア事業の売却、高齢化や後継者不足に伴う事業承継ニーズ、②低金利の資金運用ニーズが生み出す潤沢なドライパウダー——である。さらに、アクティビスト(物言う株主)の株主提案もM&Aの増加につながった。

総合電機は、事業変革のプロセスとして、また、株主からの利益率向上の圧力を受け、成長領域への投資とノンコア事業の売却を加速している。特に1000億円を超える大型の事業売却では、巨額の資金と事業改革の実績を持つグローバルPEが有力な受け皿候補になる。アルミ業界などの成熟した国内市場ではPEの資金やノウハウが、コスト構造の変革に活用されている。

経営者の高齢化やコロナ禍といった変革が進む中、事業承継は待ったなしの問題である。売手企業と買手企業を仲介するM&Aプラットフォーマーの増加により、事業承継ニーズがM&Aにつながる事例は増えた。PEファンドは事業承継の受け皿として存在感を発揮しており、グローバルPEの間でも、ミドルサイズ(中堅・中小企業)の事業承継ニーズに応えるため、ファンド組成や体制強化を図る動きが出ている。

(2)転換を迎えた金融政策・変調が予想される経済

欧米では政策金利引き上げと景気減速懸念から、M&A案件の減少や投資銀行での人員削減が進んでいる。PEファンドはLBO(レバレッジド・バイアウト)資金の調達金利の上昇によって厳しい環境が続く見込みである。一方、日本の政策金利は米欧に比べれば低く、PEにとっては日本で企業をLBOする際の借入金の負担が少ない。相対的に低い金利環境が続く限り、PEによる国内のM&Aは堅調に推移することが見込まれる。

また、日本企業に対する投資機会をつかむため、一部のグローバルPE22年に日本拠点を新設した。グローバルPEによる日本の陣容拡充は続くと見られる。さらに、M&A仲介事業者の増加や、LBO融資を提供する銀行の層の広がりがPEによる買収を後押ししていく。

(3)スタートアップ市場低迷でグロース投資に変化が起きるか

グローバルPEファンドの間でも、運用資金の一部をグロース投資に向ける動きが出ている。かつてはキャッシュフローをベースにレバレッジをかけた投資を実行するケースが多かったが、「GAFAM」と呼ばれる米デジタル新興企業が破壊的創造を引き起こす中、投資家のニーズやPEの投資スタイルの変化が一部に見受けられる。

22年に米ナスダック市場を中心にバリュエーション(企業価値評価)の低下が起きるとともに、新興市場・スタートアップ企業の資金調達環境は冷え込んだ。大きな変化が起きる中、PEファンドによるグロース投資にブレーキがかかるのか。あるいは、スタートアップ企業のバリュエーション低下を好機と捉え、グロース投資を継続・拡大するのか。

  • 中長期課題:投資後のバリューアップ・バリュークリエーション(価値向上・価値創出)

かつて“ハゲタカ”と警戒されたPEファンドは日本で投資実績を積み重ね、企業の間では成長や構造改革の重要なサポーターと認識されるようになった。ファンド間の競争は激化しており、高額買収案件や困難な事業承継案件で適切に経営・事業改革を進め、バリューアップ・バリュークリエーション(価値向上・価値創出)を実現できるかが問われる。

PEファンドは投資家から資金を預かり運用する立場にもあるため、買収先企業のバリューアップを徹底し、投資家に利益を還元していかなければならない。ファンド間の競争激化によって買収価格が高騰した案件において、利益還元の責任を果たすには、投資時のバリューアップ構想を実現させる取り組みが必要になる。投資実行後の経営サポート力が問われ、長期的にはファンドの競争力にも影響してくるだろう。

事業承継案件では、中核部門の人員が不足し経営管理体制が脆弱なケースがあるため、経営管理体制の支援・強化が重要な課題となる。

(協力=DTFAプライベートエクイティ・チーム)

江田 覚 / Satoru Kohda

編集長/主席研究員

時事通信社の記者、ワシントン特派員、編集委員として金融や経済外交、デジタル領域を取材した後、2022年7月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。DTFAインスティテュート設立プロジェクトに参画。
産業構造の変化、技術政策を研究。

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