銀行業で2023年以降、台風の目になる可能性があるのは、地方銀行による中小企業の買収の動きだ。制度改正によって事業承継支援などを目的とした買収の規制が緩和されたため。その動きがどの程度進むのか、さらには中小企業の統合・再編にまで発展するのかが注目される。一方、大手銀行は海外金融など成長領域への出資やポートフォリオの多角化を続けると見られる。

銀行業ではこれまで、大手銀行が東南アジアなどの海外金融事業のM&A(合併・統合)やデジタル企業への出資に取り組んできた。地方銀行では持ち株会社による経営統合や資本提携が緩やかに進展。少子高齢化によって国内貸付の伸びは見込めず、大手・地方銀行は新領域での成長取り込みや提携による経営効率の向上を模索してきた。

2023年に最も注目すべき三つのポイントは、(1)地方銀行による事業承継支援を目的とした中小企業買収がどの程度進むのか、(2)大手銀行による海外金融機関への出資は続くのか、(3)大手銀行による不動産・資産運用会社の買収などポートフォリオの多角化――となる。

(1)事業承継支援を目的とした中小企業買収がどの程度進むのか

21年に施行された改正銀行法により、銀行は地域経済に寄与する非上場企業への100%出資などが可能になった。高齢化したオーナー経営者の事業承継は全国的課題であり、23年以降は地方銀行傘下の投資会社が承継支援で存在感を発揮するか要注目だ。プライベートエクイティ(PE)ファンドさながらに、中小企業を買収し、経営を改善し、新たなオーナーに引き継いでいくという役割が期待されている。

地域経済の停滞と超低金利に伴う預貸の利ざや縮小によって、地方銀行の収益環境は悪化しており、企業へのエクイティ投資は新たな中核事業になり得る。投資や経営改革の専門的知識を持つ人材の確保が課題となる。

(2)大手銀行による海外金融機関への出資

国内貸付は依然として伸び悩んでいるため、大手銀行は23年以降も成長を海外市場に求め、海外金融機関への出資を継続すると見られる。為替の変動は大きな影響を与えない模様だ。収益や相乗効果を見込めない事業の売却などの押し引きもあると見られる。

日本国内では、顧客サービスの向上・つなぎ止めのためにデジタル事業の拡充がますます重要になっている。特に大手銀行による国内外フィンテック企業への出資は23年以降も続くと見られる。ベンチャー企業の資金調達やIPO(新規株式公開)が市況悪化で低迷する中、フィンテック企業の株主がイグジット先として大手銀行を選ぶ動きが顕在化する可能性がある。

(3)大手銀行による不動産・資産運用会社の買収などポートフォリオの多角化

国内貸付の低迷を補う別の手段として、大手銀行は不動産やハイイールド債、PEファンドへの出資など、ポートフォリオの多角化を進めてきた。このトレンドに加え、機関投資家や富裕層が保有する資産の管理サービスに踏み出すため、海外資産運用会社などを買収する動きにも注目である。

  • 不確定要素:日銀新体制の金融政策

日銀は23年春に黒田東彦総裁が退任し、新体制に移る。日銀新体制による金融政策の修正・変更が銀行経営の行方を大きく左右する。現在の金融緩和、長短金利操作の方針が変更されれば、国債や他の金融商品のボラティリティが高まり、銀行が保有する資産の運用方針にも影響を及ぼす。

  • 中長期課題:地方銀行の再編

地域経済の縮小を受け、地方銀行のオーバーバンキング状態が長らく指摘されている。政府は20年に地方銀行の合併・再編について独占禁止法の適用を10年間除外する特例法を施行し、21年には合併支援のための交付金制度を導入。地方銀行の経営基盤強化のため、再編を促す姿勢を明確にした。これを受けて、地銀同士の合併検討や新興金融企業による地銀への出資などの動きもあるが、再編のスピードは依然として緩やかと言える。

新型コロナウイルス後における地域創生、中小企業の活性化を推進するためには、地域に根差す地方銀行が重要な役割を担うことは間違いない。そのためには、地方銀行自身が強くならなければならない。再編という選択肢を排除せず、経営基盤や収益力を強化する大胆な決断が求められている。

(協力=DTFA金融チーム)

江田 覚 / Satoru Kohda

編集長/主席研究員

時事通信社の記者、ワシントン特派員、編集委員として金融や経済外交、デジタル領域を取材した後、2022年7月にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。DTFAインスティテュート設立プロジェクトに参画。
産業構造の変化、技術政策を研究。

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