パワー・アナログ・イメージ半導体のM&A動向に要注目
テクノロジー産業ではこれまで、総合電機メーカーや大手IT企業が、成長領域への選択と集中に向け、持ち株会社化を含む組織改編やノンコア部門・子会社の売却を進めてきた。半導体分野では、新型コロナウイルス感染拡大によって需給が大混乱に陥ったためM&Aの動きは停滞していた。
2023年に注目すべき三つのポイントは、(1)国内非デジタル系半導体事業・製造拠点のM&A動向、(2)総合電機メーカーによるデジタルやESG(環境・社会・ガバナンス)など成長領域への投資、(3)大手IT企業による人材確保を目指した中堅・中小SIer(システムインテグレーター)企業の買収——である。
(1)国内非デジタル系半導体事業・製造拠点の買収の活性化
日本の半導体業界では22年、大手企業連合による世界水準の先端ロジック半導体の開発・量産を目指す挑戦的な取り組みが始まり、今後もその動向が注目される。
一方、23年のM&Aトレンドの観点からは、非デジタル系と呼ばれるパワー・アナログ・イメージセンサー半導体が最大の焦点となる。例えばパワー半導体は電力制御用の素子であり、自動車、鉄道、産業機器、発電設備から家庭用エアコンまで幅広く活用されている。日本企業が競争力を維持している分野である。EV(電気自動車)や太陽光・風力発電設備向けの需要が高まっている。アナログ、イメージセンサーも同様に日本メーカーが優位性を維持している領域だ。
国内では減価償却済みの製造拠点が多く安定的な利益が見込めることから、プライベートエクイティ(PE)ファンドあるいは複数の企業が出資して結成するコンソーシアムによる買収が進む模様。日本半導体の最後の砦とも言える非デジタル分野で、どのようにM&Aが進むかに要注目である。
(2)総合電機メーカーによるデジタルやESGなど成長領域への投資
総合電機メーカーや大手IT企業は、ノンコア部門の売却に目途を付け、成長領域での買収、投資を加速するだろう。対象に見込まれるのは、データを活用したサービスやプラットフォーム。高い収益力と最先端ノウハウの取り込みが狙いとなる。
さらに、脱炭素化ルールが厳格な欧州市場を視野に入れ、温室効果ガスのフロンを使わない空調事業の買収なども活発になると見られる。コロナ感染拡大でオフィスビルの管理システム事業などのM&Aは停滞していたが回復に向かう可能性がある。
(3)大手IT企業による人材確保を目指した中堅・中小SIer企業の買収
デジタル化の進展によってIT人材の不足が深刻な問題になっている。大手IT、SIer企業は専門的な知識・技能を持った人材を確保するため、中堅・中小のSIer企業の買収に取り組んでおり、こうしたM&Aがさらに活発になると見られる。
- リスク要因:経済安全保障上の「守り」と海外投資で実利を得る「攻め」の両立
円安を背景に、海外企業による日本のテクノロジー企業のM&Aが増えると見られる。過去には、技術流出や企業解体に至った例もあるため、国内のテクノロジー業界には根強い警戒感がある。政府においても、外為法(外国為替及び外国貿易法)に基づく投資管理や経済安全保障上の政策対応を強化している。
ただし、かつて海外系PEファンドを“ハゲタカ”と呼んでひたすら忌避した時代があったが、今では日本産業の競争力強化と構造改革になくてはならないプレイヤーであるという認識が確立されている。経済安全保障上の「守り」と、海外からの投資を上手に取り込んで実利を得る「攻め」の両立という難しい舵取りが求められている。
- 中長期課題:産官学連携による半導体・デジタル戦略の進化と実行
1988年に5割を超えた日本の半導体産業の世界シェアは1割未満まで落ち込んだ。テクノロジーの未来を見据えた戦略を立てられなかったことが敗因と言われている。
そうした反省に立ち、次世代技術基盤の強化などを柱とした『半導体・デジタル産業戦略』が経済産業省により2021年に策定されたことは、大きな転換点だったと言える。産官学の連携体制を立て直し、世界情勢の変化に応じて戦略を進化させ、着実に実行していくことが極めて重要である。
(協力=DTFAテクノロジーセクター・チーム)