ヘルスケア産業、多業種連携が変革の推進力に
目次
2022年までのライフサイエンス・ヘルスケア産業を概観すると、成長分野への投資の準備が進んでいたと言える。国内大手製薬企業では、新薬開発に経営資源を集中するため、不採算事業の売却や海外販売地域の見直しが続いた。将来の成長を見込み、電子カルテや医療データを扱う企業の買収が目立ち始めた。一方、高齢化に対応する病院・介護施設の再編は20年以降、コロナ感染への医療対応が優先され、ほぼ止まっていた。
23年に最も注目すべき三つのポイントは、(1)国内大手製薬企業による新薬開発力の強化を目指した買収がどのように進展するか、(2)コロナ禍で停滞していた病院・介護施設関連のM&Aがどの程度回復するか、(3)多業種連携による課題解決型ヘルスケア・サービスのインパクト――である。
(1)国内大手製薬企業によるパイプライン強化を目指した買収
製薬業界では、臨床試験の複雑化や開発費用の高騰などにより、「ブロックバスター」と呼ばれる画期的薬効を持つ高収益新薬を事業化するハードルが上がっている。国内大手製薬企業の一部は新薬の開発を強化するため、2023年以降に大型買収を含めた意思決定を迫られる可能性がある。日本企業がからむ1000億円超のM&Aが起こり得る。一方、ノンコアと位置付けた製品・海外事業を売却するトレンドは23年以降も続くと見られる。
(2)コロナ禍で停滞していた病院・介護施設関連のM&Aがどの程度回復するか
国内病院・介護施設では23年以降、M&Aの検討が再開し、コロナ禍以前の水準に回復していくと見られる。高齢化に伴う病院・介護施設の地域再配置や、老朽化した施設の改修が急務となっているからだ。また、コロナ禍では専門医師や医療従事者不足を背景にした病床のひっ迫が問題となった。病院などの運営規模拡大、経営効率化に向け、M&Aによる再編が選択肢となる。
(3)多業種連携による課題解決型ヘルスケア・サービスのインパクト
「未病」や「予防」といった病気になる前の人を対象にしたヘルスケア・サービスへの関心が高まっている。ICT(情報通信技術)や製薬、医療機器、運輸、セキュリティなどの様々な企業が連携して課題解決に取り組む動きに要注目である。1対1のM&Aに限らず、多数の企業によるジョイントベンチャーや組合形式、コンソーシアム形式での連携が想定される。ヘルスケア変革の推進力になる可能性がある。
- 中長期課題:コロナ禍の教訓を生かせるか?
コロナ禍は、日本の製薬メーカーのワクチン開発力、政府・自治体の危機管理能力、データに基づいた分析力、医療機関・医師会などの態勢・連携、給付金支給の仕組みなど、様々な課題を浮き彫りにし、多くの教訓を残した。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と一過性の出来事としてはいけない。当事者ごとに、あるいは横断的に、貴重な教訓を今後に生かすための議論と検討が必要である。
上述した多業種連携のような新たな試みも、そうした反省と改善の基に成り立つ。人々の健康意識が高まっている今こそ、思い切った施策を打ち出し、社会実装に挑戦すべきである。2023年は、それが試される年となる。
(協力=DTFAライフサイエンス・ヘルスケアセクター・チーム)