運輸構造改革、「シン・日本株式会社」の連携力で
目次
航空運輸業界は、陸・海・空で景況感に違いがあるものの、それぞれが難しい課題に直面している。概況は以下の通り。
【陸運】
EC市場の拡大などによって需要動向が質・量ともに大きく変化する中、ドライバーの人手不足、長時間・低賃金労働、燃料高騰などが課題となっている。特に、ドライバーの待遇改善を目的とした時間外労働時間の上限規制が2024年4月1日から強化される、いわゆる「2024年問題」が、かえってドライバー収入の低下→離職→さらなる人手不足という悪循環を招き、特に中小運送会社の経営を圧迫するのではないかと懸念されている。
【海運】
海運不況の真っただ中にあった2017年、海運大手3社がコンテナ船事業を統合した。「歴史的転換点」という当事者の自己評価は決して過大ではなかったが、3社統合しても世界での順位は6位にとどまり、かつての海運大国ニッポンの面影は薄れた。コロナ禍で世界の海運需給バランスが崩れたことで運賃が大高騰し、海運各社は空前の高収益に沸いたが、それも徐々に落ち着きつつある。海外大手に対して規模では太刀打ちできない中でいかに競争力・収益力を高めるか、2050年ゼロエミッションにどう対応するのかという重い課題が残されている。
【空運】
2022年10月11日から新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和され、ほぼ平時の状態に戻った。訪日旅客数が増加に転じ、インバウンド消費も回復に向かっている。ただし、個人旅行の戻りに比べ、ビジネス需要は決して楽観視できない。ずばり、コロナ禍前に戻ることは当面ないとの観測が優勢である。ビジネス需要は航空会社の利益の源泉であるだけに、収益面では厳しい局面がなお続く。スリム化、新たな収益源創出、事業ポートフォリオの組み直しが喫緊の課題である。
山を動かす21世紀型の官民連携を
いずれの分野でも「山」は非常に大きい。共通点として以下の三つがある。
- 思い切った企業統合・業界再編による構造改革を断行し、生産性・競争力の大幅な向上・強化が必要であること
- 脱炭素への対応は巨額投資を伴うインフラ・設備・機材の作り直しとなる。民間の創意工夫と努力が前提だが、官の支援と連携が不可欠であること
- 世界の競合も既に動き始めており、これまでにないスピード感による決断と行動が迫られていること
特に海運では、先述したようにコンテナ船事業の統合という構造改革に大手3社が協力して成し遂げた実績があるだけに、第2弾、第3弾の動きに大いに期待したい。例えば、海難事故の防止や船員不足への対策などを狙って各国が技術開発にしのぎを削っている「船舶の自動運行」では、日本は官民連携の努力が奏功し、先行的なポジションに立っていると言われている。
ここが勝負どころである。旗を取りに行くなら今ではないか。日本がイニシアティブを取り、世界標準をまとめ、ルール形成を主導するチャンスである。「全速前進ヨーソロー!」の掛け声をかけたい。
これまでの官民連携は責任の所在が曖昧になり、リスクを避けようとするあまり決定・決断になかなか至らず時機を失してしまうと指摘されることがたびたびあった。この限界をなんとかして乗り越えなければならない。リスクを恐れてトライしないのではなく、失敗から学び、次に生かす姿勢でチャレンジすべきである。他国や競合にキャッチアップすることを目指すのではなく、自ら前に進み世界をリードする発想に切り替えるべきである。
「21世紀型の官民連携」の在り方を直ちに確立し、山を動かそうではないか。
米欧中に奪われた日本の「お株」
1970年代から1980年代にかけて高度成長を続ける日本は「日本株式会社」、日本人は「エコノミックアニマル」と揶揄された。政官財が一体となった経済最優先の行動原理は、世界の中で異質な存在であるとさえ言われた。
だが、半世紀近くを経た今、日本のお株は欧州、米国、中国などに奪われてしまった観がある。脱炭素などのルール形成における欧州のリーダーシップは、その典型と言える。
もちろん、政官財の癒着や政官が勝手に描いた施策の民間への押し付けなどは論外である。だが、100年に一度の大転換期における産業政策や官民連携の重要性が、過小評価されたり否定的に見られたりすることはあってはならないと思う。
政官財が健全な緊張感を保ちながら、日本の成長について議論を尽くし、政官は民に対して適切な支援を行い、民は創意工夫とたゆまぬ努力を重ね、決断し、行動する――。進化した「シン・日本株式会社」の連携力で、この難局を突破したい。
(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート 編集長)