攻めの成長戦略としてのPEファンド活用を
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外資系・日系大手のプライベートエクイティ(PE)ファンドをクライアントとし、投資検討時のデューデリジェンス(DD)および投資後のValue Creationなどをお手伝いしている。また、Deloitte Private Japanリーダーとして、日本の非上場企業、ファミリー企業の支援を行っている。
PEファンドの日本における目下の焦点は、大企業のカーブアウト(非中核事業の売却)と事業承継の2つ。この領域には、潜在力はあるのに成長しきれない企業と悩める経営者が多い。
カーブアウトと事業承継がホットスポット
大企業カーブアウトの潮流を生み出している要因の一つが、投資家の変化である。東京証券取引所など全国4証券取引所の外国人等株式保有比率は約3割、東証プライム上場銘柄の売買株数、売買代金は、外国人等が約7割にのぼっている。さらに、コーポレート・ガバナンスコードの制定も相まって、適切な情報開示と透明性の確保、すなわち説明責任と行動が企業に求められている。
日本の大企業に対しては以前から、多角経営におけるリソース配分の非効率性による営業利益率やROE(自己資本利益率)の低さが指摘されてきた。いわゆる、コングロマリット・ディスカウントの問題である。また、多角経営かどうかにかかわらず、全般的にROEが低い日本企業に対してジャパン・ディスカウントなどと揶揄する声もあった。
だが、そうした状況は徐々に変わりつつある。ノンコアの子会社や事業を売却する案件は確実に増えている。一般的にノンコア事業にはヒト・モノ・カネの経営資源が十分に提供されず、成長潜在力はあるのに思うように成長できないというジレンマを抱えていることが多い。PEファンドは、必要な経営資源を投入し、本来の成長軌道に戻していく。
カーブアウトは、母体企業にとっても子会社にとっても企業価値向上と成長力強化のための有力な戦略である。そこにPEファンドが深く関わっている。
一方の事業承継は、日本が直面する大きな課題である。様々な指標がそれを裏付けている。
- 日本法人約279万社(個人事業主等を除く)のうち96.4%がファミリー企業である
『会社標本調査(令和2年度分』、国税庁
- 上場企業の49.3%がファミリー企業である
『ファミリービジネス白書2022年版』、白桃書房
- 日本の社長の平均年齢は60.3歳。後継者がいない割合が61.5%である
『全国「社長年齢」分析調査2021』、帝国データバンク
『全国企業「後継者不在率」動向調査2021』、帝国データバンク
非上場のファミリー企業の場合、株主から短期リターンを要求されるようなことがないので、ブランド構築や人材育成、研究開発、設備投資を含めて長期的な視点で経営できるというメリットがある。
一方、ファミリー企業は会社の管理体制や財務体制が脆弱になりがちである。親族間による骨肉の経営権争いが勃発すれば経営の不安定化を招く。さらには、経営が硬直化し、イノベーションの推進、ビジネスモデルの再構築、海外市場への進出などが進まないという事例も散見される。
PEファンドは、そうした企業に対してマジョリティ出資するとともに、成長戦略の再構築、専門家採用、海外進出、M&Aなど、資金と経営の両面から支援を行う。グローバルPEの場合、世界の類似ケースにおけるベストプラクティスを持ち込むこともできる。既に、日本におけるPEファンド案件のうち約6割を事業承継型が占めるまでになっている。
いまだに誤解がある点だが、PEファンドが目指しているのは5~7年後にIPO(新規株式公開)させてリターンを得ること、だけではない。リターンは重要だが、IPOした途端に収益が低迷してしまうようではいけない。IPO後も5年、10年にわたって自律的かつ持続的に成長できる経営システムを構築できるかどうかが試されている。「成長」の実績こそがPEファンドのブランド価値であり、それがファンド組成力に直結する。
成長追求の強力なサポーターに
視点を上げたい。日本企業が直面する多くの課題の本質は「市場の飽和」にある。国内市場がピークアウトしつつあるのに業界企業数は過剰なままなので過当競争から抜け出せない。これは日本経済の構造的な問題であり、個人、個社の知恵と努力だけでは如何ともしがたい部分がある。
PEファンドは、これまで日本国内で多くの実績を積んできた。日本企業の側からも「攻めの成長戦略」の有力な選択肢として検討する時が来ているのではないか。
PEファンドの資金力は絶大である。2020年には日本国内のファンドだけで1兆円近くファンドレイズができた。また、米国・アジアなどのファンドから日本への振り向け分が推定で6~7兆円であり、待機資金(ドライパウダー)は潤沢である。
そして最も強調したいのは、PEファンドのミッションは成長鈍化企業や成熟企業を再び力強い成長軌道に押し上げることだということ。「成長追求」がそのDNAに深く刻み込まれている。日本企業が再成長を目指すために無くてはならない強力なサポーターであり、今後、その重要性はますます高まるはずである。
(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート 編集長)