新興国インフラビジネス、人財鎖国を解け
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世界各地のインフラ・公共セクター向けビジネス、特に新興国・開発途上国におけるインフラ構築事業に長く関わってきた。現在の主戦場は、東南アジア諸国をはじめとする開発途上国における鉄道建設、道路整備、都市開発、水道整備など。ファイナンシャルアドバイザリーファームとして、事業の上流である政策や仕組みの検討を支援することが多い。
このセクターは、次のような大きな変化の中にある。
(1)ODA(政府開発援助)頼みから、民間投資拡充へ
(2)インフラの建設というハード先行から、ファイナンス・ビジネスプラン、オペレーションまでを加えたソフト重視へ
(3)オペレーションには多くの機能・サービス、事業者が関わるため、プロジェクトの複雑性が増大へ
どの国も経済が急成長しているものの、いまだ社会インフラは不十分である。しかも、都市化、生活の多様化、電子化の急速な進展に対応するためには、ODAだけではとても間に合わない。民間の参加と投資への期待度が急速に高まっている。
民間の参加と投資を呼び込み、最大限活かすためには、造って納めて終わりではなく、造った後に持続的に運営できるようなオペレーション設計にこそ力を入れるべきという認識も広まっている。オペレーションは、様々な機能やサービスによって支えられ、多くの事業者が長期間にわたって関わることになる。必然的にプロジェクトの複雑性が大幅に増大している。
ODA戦略の高度化と現地人材の活用を
そうした中、日本勢が活気に満ち溢れているとは言えない。中国・韓国といった競合国に劣後する場面も多く、少なくとも1980年代にODAでアジア圏を席巻していた状況とは隔世の感がある。アジアや世界の発展のため日本がこれからもしっかり貢献していくために、私見ながら2点提案したい。
第1に、ソフト分野へのODA強化である。ハード先行からソフト重視への流れに合わせて、当該国の政府・公共セクターのオペレーション能力強化のためにODAを重点的に投入していくことを検討すべきである。
先述したように投資して建設したハードを生かすも殺すも、その後のオペレーションにかかっている。ところが、新興国・開発途上国における政府・行政のオペレーション能力は、概して必ずしも高くない。当該国の政治や行政そのものがインフラ投資やビジネス推進のリスクとなりかねない。このボトルネックを解消するための支援に投資することはODAが担うべき役割ではないだろうか。
また、民間頼みが過ぎると、エネルギー、不動産、通信といった儲かりそうな分野に投資が集中してしまい、下水、交通、廃棄物処理、教育といったあまり儲からないが社会インフラとして極めて重要な分野が置き去りにされてしまうという懸念もある。そうした分野におけるハードとソフトの両面からの支援は、日本のODAが本領を発揮すべき分野である。
ただし、ソフト面へのODA投入金額には課題がある。例えば米国政府は、東南アジアやアフリカ等の開発途上国に対して、再生可能エネルギーに関する制度整備、民間セクター開発といったソフト面に1件当たり複数年で数十億円もの支援を行うことが珍しくない。途上国の産業、政策、法制度に大きなインパクトを与えており、当該国における米国自身の影響力とプレゼンスの強化につながっている。
米国に比べると、日本は1件当たりの支援規模が圧倒的に小さい。ソフト分野への投資・支援を重点強化することを急ぐべきだ。それは、ハード分野への巨額投資で存在感を高めている中国・韓国との競争においても、日本の優位性を示すことにつながる。
第2に、現地人材の徹底的な活用である。言い方を変えると、国内人材一辺倒で進めるグローバル化の限界を客観的に見極めることである。
日本企業によるFDI(海外直接投資)の金額やM&Aの件数を見ても、東南アジアの主要都市において日本企業が投資をリードしているとは言い難い。だが、5年後10年後に日本企業が置かれるであろう市場・競争の環境は、各企業の事情などお構いなしに否が応でも国際化の徹底的な推進を迫っているはずだ。
向き合うべき問いの一つは、それでも日本人主体の人材戦略で本当に大丈夫なのか、という点である。日本では若手の海外志向が低迷していると言われる。片や新興国・途上国には成長意欲をもった若手優秀人材が溢れている。グローバル事業の観点で考えた時、後者を活かさないという選択肢は無い。
日本企業が貫くべきは、現地の人たちとの繋がりを大切にし、当該国の発展と国民の幸福のために貢献するという真摯な姿勢である。現地の若手優秀人材をもっともっと採用し、幹部に抜擢し、「現地人財活用力」で勝負することを提案したい。
現地の若手優秀人材のほとんどが欧米への海外留学経験者であり、英語と自国語のバイリンガルである。日本に対して抱くイメージも悪くない。彼ら彼女らの人脈を生かすことによって現地コミュニティを形成し、それを土台にしてプロジェクトを強力に推進していく。
そして、現地優秀人材を現地限りの活躍で終わらせず、日本での活躍機会も与える。現状では、「日本語を話せること」をその条件にしている企業が少なくないが、これはグローバル人材が日本企業で活躍するための門戸を著しく狭めている。日本企業にとってもグローバル人材活用の道を自ら閉ざしている。海外の優秀人材が日本で活躍することになれば、日本人と日本のビジネスの国際化も一気に進むことにつながる。
世界は日本に合わせてくれない
これまでも繰り返し言われてきたことではあるが、グローバル市場に活路を求めるのなら、日本語や日本的であることを絶対条件としたマネジメントシステムからのステップアップが必要である。世界は日本に合わせてくれない。日本側が変わるしか他に道は無い。
急ぎ実行すべきこととして、以下の3点を提案したい。
第1に、海外法人において現地優秀人材を積極的に幹部登用すること。コミュニケーションは英語などで行うことを徹底する。
第2に、海外で採用したグローバル人材を日本に呼び寄せて活躍の場を与えること。英語などでコミュニケーションできる態勢を日本でも整えること。
第3に、企業が海外優秀人材を日本に招き入れやすくする、活躍しやすくするような政策・制度面からの支援を講じること。特に若手優秀人材の受け入れを大幅に増やすための制度設計、ビザ発給条件の緩和、受入企業への補助金投入などを含めて。
私の肌感覚では、「やるか、やらないか」ではなく「勝つか、負けるか」の段階にまで来ている。「人財鎖国」を一刻も早く解き、真のグローバルジャパンへの道を拓くべきである。
(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート 編集長)