競争のフロンティアが宇宙にまで広がる産業機械・建設セクターでは、ここ数年、静かだが確かな変化が進行している。日本企業が長く抜け出せなかった「発想の自前主義」との決別である。

でっかいモノを造る企業――。そういうクライアントに対してM&A(合併・買収)を軸として様々なお手伝いをさせていただいている。

産業機械・建設セクターでは他分野と違わず、グローバル競争、業界再編、調達価格の高騰、経済安全保障がらみのサプライチェーン見直し、等々、様々な課題に直面している。M&Aに関してはバイサイド(海外企業などの買収)のイメージが強いが、事業再編の切り口でのセルサイド・カーブアウト(事業の切り売り)の動きも活発化している。新領域への進出にも積極的であり、最近では宇宙ビジネスが新たなフロンティアだ。

変革成功企業が実践する丁々発止の議論

そんな領域でここ数年、私が体感している変化は、クライアントとの距離感がぐっと縮まっているということだ。

「これから当社がどのように動くべきか、意見・提案を持ってきてほしい」。M&A案件ごとの助言にとどまらず、戦略そのものについて相談を受けることが増えている。応じる側としては、できる限り自由に発想し、大胆かつ踏み込んだ仮説を立てて投げ込む。本気の提案に対してはクライアントも乗ってくるし、議論が大いに深まる。提案の突っ込みが浅いと「もっと深く、角度を変えて」と厳しい注文がつく。

丁々発止である。クライアントとの議論が、かつてこれほどの盛り上がりを見せたことはなかった。“壁打ち役”を務めながら、日本企業の奥深い所で確かに変化は起こりつつあるという手ごたえを感じている。

どんな球も打ち返せるよう、私のチームにはできる限り多種多様な人材を社内外から集めている。アンテナを張り、勉強を重ね、世界の最新トレンドキャッチアップしている。日本企業の変革と成長のための潤滑油であり、トリガーでありたいと切にそう願う。

確かに、トランスフォーメーションの成功企業は「議論好き」であることが多い。社内に閉じこもらず、社外の意見にもしっかり耳を傾けている。手前味噌だが我々のようなアドバイザリー会社やコンサルティング会社のほか、PEファンドなどにも真正面から議論を挑んでいる。

そうした真剣勝負を通して、世界の情勢を読み、戦略の選択肢を見据え、売り手・買い手の候補リストを睨みつつ、組織再編後の絵姿を描き、資金調達の当たりもつける・・・。そうやって形成された経営判断は腹落ちが良い。その合理性が、日本独特のしがらみや因習といった壁を突破していく様を何回も目撃するようになってきた。

「発想の自前主義」と決別することは、日本新創造に向けた第一歩である。

サプライチェーンの見える化がもたらす可能性

もう一つ、経済安全保障にからんで一気に重要キーワードに躍り出た「サプライチェーン」について。日本の製造業全体について言えるのだが、サプライチェーン全体の見える化が目下の緊急課題になっている。ピラミッドの頂点に立つトップティアは、Tier1の先のTier2くらいまでは把握できているが、さらに下層となると途端に見えなくなってしまうというのが意外な実態なのだ。経済安保でサプライチェーンの安全点検が迫られたことで、そこに初めて光が当てられることになった。

「なんだ、自分たちの製品のパーツを誰が作っているのか知らなかったのか?!」という驚きの声も聞こえてきそうだが、私はむしろ好機ととらえたい。トップティアがそのサプライチェーンを正確に把握することは、3つの点でポジティブだと考えるからだ。

(1) 国内外のサプライヤーを正確に把握することで経済安保上のリスクを未然に防げる
(2)サプライチェーンの組み換えなど、競争力強化のための戦略を立案・実行できる
(3)トップティアを頂点とした結束・連携によって新たな価値創出につながる

(2)と(3)には相反する面がある。そして(3)には、私自身の個人的期待感が入り混じっている。

サプライチェーンの大半を占める中小企業は、どんなに優れた技術や素晴らしい製品を持っていても、上位Tierに対する交渉力はとても弱い。経営の自由度が制約され、例えばM&Aによって規模を大きくするなどという手を考える余裕もない。サプライチェーンに組み込まれた中小企業の運命は最終的にはトップティアの考え次第なのである。

そこで、トップティアに期待したいのは、自社サプライチェーンへの参加企業の統合・再編について強いリーダーシップを発揮してほしいということである。もちろん、簡単な話ではない。激しいグローバル競争にさらされているトップティアも余裕がなくなっている。普通なら動きはしない。だが、サプライチェーンの見える化が何かのきっかけになるかもしれない。

意外に、トップティアの御旗の下に結束・連携し企業集団として変革と成長を目指すというアプローチは、日本的企業文化との相性が良いのではないだろうか。議論の発想としては残しておきたいと思う。

(構成=水野博泰・DTFAインスティテュート編集長)

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー パートナー

赤坂 直樹 / Naoki Akasaka

産業機械・建設リード
ストラテジー統括
米系コンサルティングファームにて民間企業・官公庁に対し、BPR・基幹システム構想策定、設計等に従事した後、大手監査法人系M&Aアドバイザリーファームにて、M&Aおよび再生局面でのコンサルティングサービスを専門とするチームのリーダーとして従事。2013年よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社のM&Aトランザクション部門にて戦略策定支援、フィージビリティ分析、コスト削減戦略、ビジネス・ITデューデリジェンス、事業計画策定支援、統合後のPMIや業務改善等のアドバイザリーチーム立ち上げに関与した後、現在の部門にて同領域サービスのリーダーとして従事。


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