日本最北端のリゾートといえば「ニセコ」の名前を挙げる人も多いのではないでしょうか。息を呑むほど美しい自然景観と世界屈指の良質なパウダースノーは、多くの外国人観光客を魅了し、スキーリゾート「Niseko」として急速な発展を遂げてきました。

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下DTFA)は、ニセコ町と2024年5月に地域包括連携協定を結び、今後、相互に連携・協力することで地域の持続可能な産業振興と住みやすさの向上に向けた取り組みを進めます。

牧歌的エリアから国際的リゾートへ

ニセコ町は、近年の国際的なリゾート地としての発展以前から、人と自然の調和を大切にしてきたエリアでした。SDGs(持続可能な開発目標)という概念が広がる前から、地域の人々は自然との共存を意識した取り組みを続けており、その牧歌的な雰囲気が長らく守られてきました。

この背景には明治・大正を代表する作家、有島武郎の思想が影響しています。有島は大正時代に父、武より狩太村(現ニセコ町)の農場を引き継ぎますが、「自然物は個人によって所有されるのではなく、人間全体の役に立つよう仕向けられるべき」という考えを強く持っていました。その後、実際に有島は自らが所有していた農場を無償で小作人たちに開放し、各々が土地に責任を持ち、助け合って生産を計るようにと「相互扶助」の精神を説いたことで知られています。

今日のニセコ町では、有島の「相互扶助」の精神が第6次ニセコ町総合計画の5つの基本目標の一つとして掲げられており、地域の人々がともに支え合いながら持続可能な社会を築くことを目指しています。

ニセコ町は、パウダースノーという観光資源によって世界中の注目を集めていますが、その成長の背景には、今なお有島の精神が受け継がれ、ニセコ町のまちづくりの根幹を支えていると言っても過言ではありません。

そうした中で、ニセコ町は2021年「SDGs未来都市」に選定されました。これは、地域が持続可能な発展を目指し、経済・環境・社会の調和を図るというSDGsの理念に基づいた未来志向の取り組みが国際的に評価されたものです。ニセコ町の未来は、過去から受け継がれてきた自然との調和の精神と、SDGs未来都市としての国際的な評価をもとに、新しい発展の道を切り拓こうとしています。

原風景夏の山

オーバーツーリズムと過剰な投資がもたらす影響

現在、ニセコ町は一部エリアの急速な開発と観光客の増加に伴い、本来のあるべき姿から逸れつつあると言われることがあります。観光客や資本の流入は地域の発展に欠かせませんが、物価や家賃の高騰、住民や行政への負担増という副反応も生んでいます。外国人富裕層に特化したビジネスにより地域資源が還流せずに域外に流出しているというのも実情です。また、ウィンターシーズンは観光業が盛況である一方、その恩恵が一部の地域や業種に留まり町全体に十分に行き渡っていないことも課題です。

その一方で、インバウンドと地域が共生する萌芽も見え始めています。

例えば、冬の繁忙期に札幌などの他地域からタクシーと乗務員を派遣してもらい、町内外の事業者と協力し交通課題の解決と地域経済の活性化を図っています。この取り組みはニセコ町だけでなく、ほかの地域でもオーバーツーリズム対策のモデルケースとなる可能性があります。

新たな“ジャパンパワー”の発信拠点

6次ニセコ町総合計画の基本理念として「こども未来共創都市」を標榜するニセコ町は、海外から多くの旅行者や移住者を受け入れる一方で、独自の景観条例を設けて乱開発を認めず、住民と事業者との緩やかな合意形成を前提とした持続的なまちづくりに取り組んでいます。これは、古から人と自然の共生を実現してきた文化と技術、すなわち日本人共通のアイデンティティともいえるものです。今はまだ、この地を訪れる外国人たちも投機や歓楽が先行しています。しかし、この世界に誇るジャパンパワーをきめ細かく発信し、その真髄に触れる機会があれば一体何が起こるでしょうか。それはきっと、ニセコ町の町民とこの地を訪れる全ての人々、そして自然がお互いを尊重し、共生していく新しい相互扶助の精神、多様性のあり方につながるはずです。

ニセコ町は、今まさに、その大いなる挑戦を始めたところです。

ラグランジュポイント

われわれが強く共感するニセコ町の基本理念は「こども未来共創都市ニセコ」に定められており、それは5つの基本目標「自然環境保護」「人づくり」「経済循環」「安心安全な社会」「相互扶助」から成り立っています。

実は、これらは全て「人」が基盤になっているとわれわれは捉えています。では、「人づくり」に欠かせない「次世代の育成」(教育)はどうあるべきか?ニセコ町の発展の中核は学びと実践、すなわちリベラルアーツにあり、教育をベースに町民の知識・スキルの普及を通じて持続可能な事業の仕組みを構築することだと考えます。

われわれは、独自の専門家チームによるコンテンツやサービスを総動員し、ニセコ町の未来創りに伴走します。