近年、欧米で普及しつつあるチャット型調停システム「ODR(OnlineDisputeResolution)」は日常のトラブルをオンラインで簡単に解決する仕組みで、日本でも検討が始まっています。連載第2回ではODRが導入されているEC業界について解説していきます。第1回はこちら>>

ODRと相性のいい分野

前回の記事では従来の裁判制度の不便な点をITによって改善したODRという仕組みがあることを紹介しました。ではどのような分野でODRが使われているのでしょうか。

ODRはシステムでトラブルを処理するため

  • パターン化されたトラブルの解決が得意
  • コストが安く、少額のトラブルでも費用倒れにならない
  • 多数のトラブルが同時に発生してもスピード解決が可能
  • オンライン上のトラブルであればデータ利用がしやすい

という特徴があります。この特徴を最も生かせるのがECモールやオークションサイト、シェアリングサービスなどのデジタルプラットフォームと呼ばれるサービスです。オンライン取引の拡大に伴い、利用者間のトラブルも急増しているためODRの導入が進んでいます。そのほかにも離婚、旅行、不動産賃貸契約なども少額のトラブルが多発するためODRの活用が期待されています。逆にパターン化しにくいもの、事情が複雑なもの、利害関係者が多いものなどはODRではなく対面で時間をかけて解決した方が満足度が高いと考えられます。

デジタルプラットフォーマーの責任と法律

デジタルプラットフォーマーを巡る状況については、最近大きな動きがありました。

出所:取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案概要

オンライン上で取引する場を提供する「デジタルプラットフォーム」、特にECモールやオークションサイト、フリマアプリにおいてトラブルが急増しています。

例えば届いた物が商品ページの物と違う、破損している、届かない、入金がないなど様々なトラブルがありますが、ユーザーがこれらのトラブルに遭った時にプラットフォーマーに対して苦情を言ってもプラットフォーマーは「当事者同士で解決してほしい」というスタンスを取ります。しかし法律に詳しくない個人が協議しても決着しなかったり、そもそも協議に応じなかったり、悪徳業者が粗悪品を売って逃げるなど、被害者が泣き寝入りせざるを得ないことが問題になっていました。もちろんプラットフォーマーが救済に入る場合もありますが、それを取り締まる法律がありませんでした。

この状況に対して2021年4月、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が国会で可決されました。これによりデジタルプラットフォーマーは場を提供しているだけではなく「トラブル解決の努力をする責任」が生まれました。

この中では特に「悪徳業者の情報開示」が注目されていますが、ODRの導入促進も期待できそうです。また現段階ではB2CのECモールを対象としていますが、附帯決議にてC2Cのネットオークションやフリマアプリへの適用も検討するように記載されています。

eBayは年間6000万件をODRで対応

プラットフォーマーのODR導入例として一番有名なのが米国のeBayです。世界最大のオンラインマーケットプレイスで年間の取引数は60億件以上あり、そのうち約1%の6,000万件がODRにかけられています。実に1秒に2件というとんでもない数ですが、すべてをeBayの担当者が対応しているわけではなく、約9割はAIを使って処理をしています。ECでのトラブルは、パターン化されたものが多く解決方法も限られてくるため、AIとの相性が良くスピード解決ができるのでユーザーの満足度も高まります。安心して利用できることがわかると再度利用したくなるもので、トラブルに遭遇していないユーザーよりもトラブルをODRで解決した経験があるユーザーの方がその後の利用率が高いそうです。
もめごとからリピーターを生む、ODRの不思議な魅力です。第3回はこちら>>