日常生活で小さなトラブルに巻き込まれ、不快な思いをしたことは誰にでもあると思います。その際、「裁判で訴えてやる」と思う人はそれほど多くないのではないでしょうか。裁判となるとお金がかかる、時間がかかる、周囲の人の目が気になるなど、様々な理由から結局「泣き寝入り」せざるを得ないのが現実です。
近年、欧米で普及しつつあるチャット型調停システム「ODR(OnlineDisputeResolution)」はこういった日常のトラブルをオンラインで簡単に解決する仕組みで、日本でも検討が始まっています。本連載ではODRをめぐる状況について解説していきます。

裁判件数は減ってもトラブルは減っていない

民事裁判数の推移
出所: 弁護士白書2020

日本における裁判件数は近年、減少傾向にあります。民事訴訟で見ると地方裁判所では2009年の23.5万件に対し2019年は13.5万件と10年で約4割の減少。民事調停では10.8万件から3.3万件と約7割減となっています。一方で弁護士会への相談件数は毎年60万件を超え、生活者国民生活センターや消費生活センターなどに寄せられる消費生活相談の件数は100万件を超えています。その相談の段階までたどりつかなかった人はもっと多いでしょう。
つまりトラブルに遭遇したけれども裁判をすることができないまま、泣き寝入りを余儀なくされている人が多数いることがうかがえます。
なぜ裁判を起こせないのかについては人によって様々な理由があると思いますが、代表的なものとしては

  1. 被害が少額で裁判をする費用の方が高い
  2. 契約内容が複雑であったり、相手方が複数である
  3. 高額な費用がかかる
  4. 多大な時間がかかる
  5. 労力がかかる(複雑な書類の準備、手続きがわかりにくい)
  6. 精神的負担が大きい
  7. 適切な弁護士がどこにいるかわからない
  8. 平日の昼間に裁判所に行くため仕事を休む必要がある

などが挙げられます。
裁判大国のアメリカなどに比べ日本の司法はアクセスのハードルが高く、裁判を必要としている人の2割にしかリーチしていない(2割司法)といわれてきましたが、現状の制度がトラブル解決の手段として十分な役割を果たせていないので、「日本人の裁判離れ」が起きているといってもいいでしょう。

政府の成長戦略でトラブル解決のIT化推進が決定

こういった状況を踏まえ、政府は2019年の「成長戦略フォローアップ」において、裁判手続などのIT 化の推進施策の1つとして、「紛争の多様化に対応した我が国のビジネス環境整備として、オンラインでの紛争解決(ODR)など、IT・AI を活用した裁判外紛争解決手続などの民事紛争解決の利用拡充・機能強化に関する検討を行」うという閣議決定をしました。
つまりITの活用によって紛争解決をもっとスムーズに行おうというわけです。
これを受けて関係各庁の関係者や有識者が集まり、「ODR」の普及に向けて動き出しました。

ODRとは何か

ODRとは「オンライン裁判外紛争解決手続」の略称で、オンラインでのやりとり(チャット)でトラブルを解決する仕組みです。裁判との大きな違いとしては、裁判が「裁判官が判決を言い渡して白黒つける」のに対してODRは「調停人が間に入って、双方が納得できるポイントを引き出して和解させる」という「円満解決」を前提とした制度になっています。

裁判とODRの違い

手続きはすべてオンラインで行われます。ユーザーはトラブルが発生した際に、まずはオンラインの交渉ルームでユーザー間交渉を行います。チャットで会話しながら解決を目指しますが、折り合いがつかなかった場合には、調停ボタンからオンラインの調停ルームに移ります。システムに登録されている調停人を選ぶとオンライン調停がスタートし、双方の言い分を調停人が個別にヒアリングして最終的に調停人が提示した和解案を承諾すれば解決となります。

ODRは何がいいのか

ODRのメリットは多数ありますが、端的にいえば「安い」「早い」「便利」だということです。トラブルに遭って傷ついた人がさらに多大な犠牲を払ってようやく解決するのではなく、より簡単に解決にたどり着けるようにすることで世の中から「泣き寝入り」する人を減らすことができる新しいトラブル解決システムです。社会が複雑化すればするほどトラブルは増えていきますが、それを解決する手段もまた進化しているのです。第2回はこちら>>