AIoTを活用したデザインの実践と考察

これまでAIoTとデザイン思考の組み合わせがもつ可能性と課題をひもといてきました。課題が複雑化し、ニーズも多様になっている今、企業はどのようにAIoTを活用しているでしょうか。今回は事業展開を推進しようとしている日本と中国の企業事例から未来デザインの可能性を模索していきたいと思います。

AIoTを活用したデザイン事例:中国

AI技術が最も進んでいる国のひとつと言われている中国では「新基建(新型インフラ建設)」などの政策や「5G」の超高速・超低遅延・多数同時接続の特徴を生かし、AIoTの利活用が急速に増加しています。中国国内の14億人を超える大市場での多種多様なニーズを満たすため、特にHuawei(ファーウェイ)とXiaomi(シャオミ)という2つのブランドは、AIoTを活用して中国人の日常生活に深く浸透してきました。2社の事例からAIoTがどのように実装されているのか見ていきたいと思います。

HUAWEI CLOUD:あなたのためだけの移動体験

Huawei Cloud(*1)では、フルスタック・クラウドサービスを提供し、自動車と人々の生活をよりスマートにする「Automotive」というプラットフォームを提供しています。自動車に設置された数多くのセンサーと「Connected Car」というソリューションを用いて、ユーザーの運転時の行動や道路状況などの運転に関わるデータをクラウドに収集。そこから、ドライブにおけるユーザー体験を通して、ユーザーのペルソナ、自動車の特性、運転行為、シーンなどを分析・解析しています。ドライブにおける意思決定をより迅速かつ正確に行い、加えて、ユーザーに対して車内エンターテイメントをはじめとする様々なコンテンツを提示できます。
AIoTを搭載した自動車によって安心・安全な運転の実現とともにオーナーの行動や習慣にフィットした「移動体験」に対応することで、ユーザー個人の特別な自動車へと進化していくのではないでしょうか。

出所:https://www.huaweicloud.com/intl/en-us/solution/automotive/index.html

*1:https://www.huaweicloud.com/intl/en-us/solution/automotive/index.html

XIAOMI:多岐にわたるAIoTネットワークで生活の新たな価値を提供

次にXiaomiという中国のスマホ・家電ブランドでは、スマートフォンを核として家電、掃除、健康、日用品、生活雑貨、照明など幅広い分野で、スマートデバイスを展開しています(*2、3)。その範囲はウクレレや、自転車などの非必需品にも及んでいます。それらを、自社のAIoTプラットフォームを通じて、多様なスマートデバイスと相互接続することで、あらゆる生活場面において便利さを向上させ、より好みに合うアドバイスの提供を可能にしています。
例えば、Xiaomiが提供している洗濯乾燥機は、ユーザーの洋服の好みと洗濯習慣を把握することで、季節ごとの洗濯の頻度、洗濯1回当たりの重量や数の変化を把握することができます(*4)。さらに技術が進歩し、「自動的イテレーション」を活用することで服の状態管理、家事の時短、環境配慮などの個々のユーザーが重視する価値を抽出して、潜在的なユーザーニーズを基にソリューション提供が可能になると推察されます。

出所:https://www.mi.com/index.htmlより株式会社CIA作成

*2:https://iot.mi.com/
*3:https://www.mi.com/jp/mi-induction-heating-rice-cooker/
*4:https://ja.xiaomitoday.it/xiaomi-mijia-smart洗濯機乾燥.html

AIoTを活用したデザイン事例:日本

IDC(International Data Corporation)は、2020年の日本国内IoT市場におけるユーザー支出額が6兆3,125億円であり、5年間の平均成長率は10.1%で成長し、25年後には10兆1,902億円に達すると指摘しています(*5)。これから日本においてもAIoTの活用への加速化も期待できると考えられます。日本で進んでいる取り組みを紹介します。

*5:https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prAP46737220

GOOD DRIVE:AIで保険料と事故のリスクを低減させる自動車保険

GOOD DRIVE(*6)は、ソニー損保がこれまで蓄積してきた保険商品・サービスに関わる知見に加え、ソニーグループが保有するAIやセンシング、クラウドコンピューティングなどの技術を用いることで実現したスマートフォン専用の運転特性連動型自動車保険です。

通常の自動車保険に加え、AIなどの先端技術を活用することで、事故のリスクが低いユーザーには保険料のキャッシュバックのインセンティブを提供するほか、事故のリスクを低減するためのアドバイスをするなど、これまでにない新たな価値を創出しています。

GOOD DRIVEの例は今後の保険業界とAIoTの組み合わせが広がりを見せることを示唆しています。つまり、車だけではなく、保険が適用される対象すべてのリスクを測ることができるのではないか。S F小説の「ビビビ・ビ・バップ」では、毎日の健康診断が保険加入時の条件となっており、自宅の洗面所やトイレに設置されたセンサーを通して情報収集が行われるという描写があります。AIがリスク回避のアドバイスをデータに基づいて契約者へ提供し、損失を防ぐ可能性を高めることができれば、保険会社は効率的かつ合理的なサービス提供を実現できるのではないでしょうか?

また、既存事業の保険事業だけではなく、運転以外に車でどのように過ごすか、時間の経過において行為と習慣がどのように変化するか、などの統合的な観点において新しい顧客体験価値の提供が可能となります。渋滞や事故を減らすという動機づけにおいて、東名高速の海老名サービスエリアの個室トイレにドライバーの疲労度を知ることができる「疲労度測定」という機能が実装されたというのが一例です(*7)。データだけでなく、体験価値は何か?という観点でAIoTとデザイン思考の組み合わせを行うことで今までのサービスとは違った価値を発見することも期待できます。

出所:https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prAP46737220より株式会社CIA作成

*6:https://from.sonysonpo.co.jp/topics/news/2020/03/20200318_2.html
*7:https://www.asahi.com/articles/ASN2V3DJMN2POIPE005.html

未来デザインを実現させるための3つの段階

パンデミックにより、いまやオンライン・コラボレーションツールの使用が日常となり、デザイン思考のデジタル化とオンライン化を加速させています。事例なども踏まえ、AIoTとデザイン思考の組み合わせによる未来デザインの可能性を3つの段階で示します。

第1段階では、人間のデザイナーのみでデザイン思考を行います。この段階ではデザインプロセスにAIoTやスマートテクノロジーが介入せず、人間のデザイナーが行う調査、分析、洞察に依存しています。

第2段階では、デザイン思考のプロセスが部分的にスマート化され、人間のデザイナーの意思決定を支援します。この段階では、AIoTをデザイン思考の一部のプロセスに導入し、反復など機械的なデザイナーの作業を代替します。

第3段階は、デザイン思考を完全にスマート化します。AIoTがアイデアに基づいて効率的にデザインプロセスを遂行していく段階で、人間が担う役割はクリエイティビティを発揮してユニークなアイデアを創出することになります。同時に、AIoTがもたらす法律面や倫理面での問題を防止するため、「AIoT自体をイテレーションする」という役割に移行する可能性があります。この段階で、私達人間が実施する「デザイン思考」とは何かを再定義する必要があるかもしれません。

解決すべき課題

本シリーズでは、今後ますます複雑になる未来の課題に対して、課題解決へのアプローチのとしてデザイン思考と組み合わせるべき技術としてのAIoTを紹介しました。AIoT技術は複雑であり、実装に向けて大量のリソースを投資する必要があります。そのため、今後のデザインチームには、AIoTに関わるエンジニアを増加しつつ、AIoT自体をデザインできるデザイナーも必要となることが推測できます。さらにAIoTを活用したデザイン活動において、万が一、デザイナーの意図しないことが生じた場合、誰がどんな責任を負うか、ということも考えなければなりません。
現在は進化の途上であり、業界標準、コスト、技術、セキュリティなどの様々な問題を解決しなければならないため、広範囲にて普及するのに時間を要するAIoT。課題はあるものの、ビジネス範囲を押し広げる創造的活動のパートナーとして表裏一体の関係となる未来に期待したいと思います。