AIoT x デザイン=スマート・デザイン思考

前回の記事では、複雑化している「厄介な問題」に対して有効なアプローチである「デザイン思考」と「AIoT」を紹介しました。これらのソリューションの活用が世界的に進む一方で、問題の複雑化も同様に進み続けています。

そこで、今回は現時点の有効な手法が将来も最適解とは限らないのではないか?という逆転の発想からAIoTとデザイン思考が内包する課題とスマート化の可能性について解説していきます。

デザイン思考はどのように変えられるか?

まずは、デザイン思考の課題とAIoTを用いてスマート化することで見えてくる可能性について「使い手のユーザー側」と「作り手のデザイナー側」の2つの面から考えてみます。

ユーザー側:「人間中心」から「一人ひとり中心」へ

現在のデザイン思考は「人間中心」の観点から人のライフスタイルに根付き、寄り添う点でユーザービリティ改善に有効なアプローチと言えます。しかし、実際のプロセスではいくつかの問題が生じる恐れがあります。2つの問題点を挙げてみます。

1つ目の問題点は、デザイナーが調査分析から作成するペルソナの根拠が過去のデータにあるという点です。ユーザーのニーズは非常に速く変化するため、ペルソナを作成しても、それはすでに過去のニーズであり、現在のニーズは変わってしまっている可能性があります。

2つ目の問題点は、製品やサービスのユーザー数が増加すればするほど、単一のペルソナは一部のユーザーニーズしか満たせない点です。結果、そのほかのユーザーや潜在的なニーズが無視される可能性を生みます。それはなぜか?デザイナーが認識できるのは「ヒト」としての認知の範囲であり、重要な要素や分類を見落として、本質的なニーズに辿り着けないということが発生するためです。

では、どうするか?ここでAIoTの活用を考えてみます。AIoTの登場により、これまで実現が難しかったユーザーの「共感」をリアルタイムで読み解くことができるようなります。例えば、データのグループ分けや情報の要約などに活用される「教師なし学習」という手法によるAI技術は、ユーザーデータの多様な特徴を自動的にグループ分けし、そこからデザイナーは隠れた本質を客観的に見つけられます。

上記の手法をデザイン思考に活用すれば、より多くのサンプルを処理でき、多ければ多いほどユーザーニーズ把握の精度を向上できます。サンプルに基づいた複数のペルソナを作成し、自動的に分析することで、人間のみでは見落としていた本質的なニーズに辿りつくことができる可能性を高めて、問題解決に役立てることができるようになります。これがデザイン思考のスマート化であり、「人間中心」から「一人ひとり中心」への転換です。

デザイナー側:自動的イテレーション、よりクリエイティブへ

作り手側のデザイナー視点でも「スマート・デザイン思考」の可能性をご紹介したいと思います。前回、デザイン思考の5つのステップ、共感(Empathize)、定義(Define)、アイデア創出(Ideate)、プロトタイプ(Prototype)、テスト(Test)を紹介しました。通常の場合、これらの一連のプロセスをデザイナーが、1ヶ月程度で一巡して、繰り返し行うことでアウトプットの精度を高めていきます。

AIoTの場合は、自己再帰的にプロセスの一部を自動的に反復し、多いと1日に複数回というスピードでイテレーションを実現できるため、急速に変化するニーズを把握し続けることできるようになります。反復かつ機械的な作業を自動化できれば、デザイナーは重複した機械的仕事を削減でき、アイデア創出などクリエイティブな作業により時間をかけられるようになります。

また、デザイナーが利用するツールに様々なセンサーを装着すれば、利用習慣に係るデータを収集でき、デザイナー自身の基本情報と繋げることでより使用者に近いペルソナを生成可能となります。そして、AIはペルソナに応じてデザインツールの機能やレイアウトなどをツール利用者であるデザイナーに最適化することが可能となります。

ここで、AI技術の活用がデザイン思考のプロセスにおいて、どの程度のスピード感を生み出せるのか事例を紹介します。

2021年1月、人工知能を研究する非営利団体のOpenAIは画像生成ニューラルネットワーク「DALL·E」を開発し、テキストのキャプションだけでそれに応じた画像を描ける技術を発表しました。例えば「アボカドの形をしたアームチェア」を入力すると、以下のような、ニーズを把握した複数のイメージを数秒で生成します。

出所:openai. DALL·E: Creating Images from Text"
   (https://openai.com/blog/dall-e/)

将来、このようなテクノロジーをデザイン分野に活用できれば、デザイナーはデザイン思考の各ステップにおいてユーザーニーズにもとづくアドバイスを多面的かつ迅速に得ることができ、よりよいデザインができるようになるかもしれません。

2つの大きな課題

AIoTとデザイン思考と組み合わせると多くの変化をもたらすことができる一方、短期的には活用が難しい点も存在します。それは「意思決定」と「コミュニケーション」の面においてです。

AIoTを活用することで、デザイナーは自動的にデータを収集してイテレーションをできるものの、「素晴らしさ」「倫理」などの感情的要素についてはデザイナーが判断しなければいけません。問題を定義する際に、AIはデータ分析に基づいて大量な提案を生成できる一方で、AIだけに判断させると、ある変数だけに偏り、誤判定による倫理的問題が発生する可能性があります。2021年8月、AIが「ユーザーの薬の使用量」と「ユーザーのペットの使用量」を混同し、AIが誤判定して正しい処置がされなかったという事例が発生しています。この点については、人間による監督の役割が重要視されます。

※出所:WIRED. A Drug Addiction Risk Algorithm and Its Grim Toll on Chronic Pain Sufferers"

AIoTを活用することで効率性を改善でき、「what」を収集できるものの、「why」まで掘り下げるのが難しく、インタビュー調査など「人間性」を必要とする部分では、人間のデザイナーの関与が必要です。

直面する新しい課題

また、AIoTとデザイン思考との繋がりは、メリットしかないとは言い難く、創造力の向上などの「プラス効果」と「マイナス効果」という2つ点を考慮する必要があります。

前述したように、デザイナーは機械的な作業の繰り返しを削減でき、よりクリエティブな作業へ注力でき、デザイナーは創造性を高めることに時間を割けるようになると考えられます。

AIoTをデザイン活動に活用する企業が増加すればするほど、製品やサービスのデザインにて自動的イテレーションを用いることで、効率性とユーザビリティの向上が進み、差別化できる要素は人間のデザイナー生み出す楽しさなどの感情的要素となります。つまり、人間のデザイナーが持つ創造力が差別化として重要となります。

倫理的な視点でAIが判定をするのは難しく、AIではなく人間が判断しなければなりません。また、特定の変数を固定して自動的にイテレーションを行う場合、固定していない変数を無視することで、ユーザーエクスペリエンスにネガティブな影響を与える恐れがあります。そこで、デザイナーはディレクターとして、AIoTの意思決定の倫理性を監督する必要があります。

今回は、AIoTとデザイン思考を組み合わせると、どのようなポジティブな変化をもたらすか、短期的にどの部分をまだ変えられないか、課題は何かをご紹介しました。次回3回目の記事では、日本と中国のAIoTを活用した事例、あるいはこれからAIoTとデザイン思考を組み合わせることに取り組んで変革していく可能性の高い事例についてご紹介します。そこではデザイナーやデザインチームがどのように変化しうるか、その展望についても言及していきます。