消防設備メーカーでの修行期間を経て入社後10年、単独の代表取締役となり手腕を振るう宮崎氏ですが、2代目社長として経営理念を社員と共有するに至るまでの道のりは、決して平坦なものではなかったようです。父から息子への事業承継を成功させた背景には何があるのでしょうか。インタビューでお届けします。

宮崎 慎司氏

関東防災工業株式会社
代表取締役

消防用設備工事やそのメンテナンスなどを手がける関東防災工業株式会社に2007年に入社。社内改革に取り組み、事業の成長を牽引。2015年より現職。経営理念は「カンボウでよかった」。

軽い気持ちで家業を継ぐことを決めて入社

――関東防災工業株式会社(以下、関東防災工業)の事業内容を教えてください。

関東防災工業は、消防用設備工事およびメンテナンス、機器販売を担っている会社です。消防用設備とは火災をベルや音声で知らせる自動火災報知設備、消火のための屋内外の消火栓設備やスプリンクラー設備、避難設備の避難はしごや避難経路を示す誘導灯などのことです。

会社が設立されたのは1976年で、大手電気工事会社で現場監督として電気工事に従事していた、私の父である宮崎精一が立ち上げました。当初は消火器販売など小さな業務への対応が主だったのですが、徐々に業容を拡大し、現在では24名の従業員が働いています。

――社長になられた経緯を伺わせてください。

会社を継ぐことを決めたのは学生のときで、最初は人生で1度くらい社長になるのもいいなといった軽い気持ちでした。それで卒業後に消防設備メーカーで修行し、現場監督などを担いながら業務を学びました。修行を終えて関東防災工業に入社した当初はメンテナンス作業員や工事の現場監督として働き、その後は営業と人事、総務をまとめて担当しました。

常務取締役になった頃は本当に個人商店のような形で、営業から設計、工事監督まですべてこなしていましたね。それから副社長を経て2015年に父親との共同代表の形で社長に就任し、2017年に父親が取締役会長に退いたため、単独の代表取締役となっています。

2代目社長に突き刺さった先輩の言葉

――苦労したこととして印象に残っているものを教えてください。

振り返って大変だったと思うのは、社長に就任して1~2年目あたりまでに、幹部を含め何人もの社員が辞めてしまったことです。社員のみんなには大丈夫だと言っていましたが、内心はどうしようかと常に考えていて心は休まりませんでした。

大変な状況を脱することができた理由の1つに、解決に周囲の幹部を積極的に巻き込めたことがあります。私が副社長を務めていたとき、縁があったコンサルタントの方から1年間の社長教育を受けました。1年目は私1人で受けていたのですが、翌年からは幹部候補の人を巻き込んで、トレーニングを一緒に受けてもらうことにしました。現場の業務をこなしつつトレーニングを続けるのは本当に大変でした。ただ、飲み会を開いて同じトレーニングを受けている幹部社員と愚痴をこぼし合い、私自身が幹部に研修のフォローアップを行うことで、仲間意識を醸成することができたと感じています。

尊敬している先輩に「おまえは格好が悪いな」と言われたことも大きかったですね。当時よく社員の悪いところばかり目につき愚痴をこぼすことがあったんです。でも、「どんな人間であろうと、一緒に働いてくれている仲間に感謝できないおまえは格好が悪すぎる、何のために一緒に働いているんだ」と言われて、そうだよなと反省し、どうすれば仲間になれるのかを考えました。

もともと場を盛り上げることが得意だった私は意識的に社内接待をよくするようになりました。できる限り社員のみんなのプライベートなところを自然に聞いて、一緒に喜んだり悩んだりすることで今まで以上にみんなを近い存在に感じるようになりました。また、私は裏表を作るのが苦手な人間で、特に酔っ払うと思っていることがそのまま出るんですね。相手を知るだけじゃなく一般社員から幹部社員まで、素の私を知ってくれたこともプラスに働いたのかなと思います。

組織の変革につながった新たな経営理念の策定

――これで社長をやっていけると、手応えを感じられたのはいつ頃だったのでしょうか。

「カンボウでよかった」という経営理念を策定した2~3年前でしょうか。それまでにも経営理念はあったのですが、社長以外は経営理念をよく理解していないと入社して気づきました。それで、一言でバシッとわかる経営理念にしたいとずっと考えていて、数年悩んでようやくたどり着いたのが今の経営理念です。

この経営理念にしてから、関東防災工業に興味を持ってくれる人が以前よりも増えましたし、人材採用に応募してくれる人の質が確実に向上していると感じています。特に若手で入社した人は、会社に対して愛着を持ってくれるようになったんです。

採用についての考え方を変えたことも大きかったと思います。面接で考え方や態度を見ることは大事だと思っていますが、1度話しただけではわからないですよね。それで相手に喋ってもらうことを止めるようにしたんです。今はまた少しやり方を変えていますが、面接では経営理念を作るまでの過程や私の考え、こういう会社にしたいといったことを私が延々と喋るんです。そうすると、相手は面食らうんですよね。面接に来ているのに、何かを聞かれるわけでもなく、面接官である私が延々と喋っているので。

そうした面接を経て入社してくれたのは、私の話を聞いてすごく楽しそうな顔をして、ここで働きたいといった気持ちが伝わってきた人たちです。そういった感情は表情でわかるんですよね。逆に、どこでもいいから働きたいとか、労働条件ばかり気にする人は、私の話に興味を持てない。それも表情でわかります。

関東防災工業に興味を持った人に入社してもらうと、その人たちが会社見学などで来た別の人に対して、勝手に会社の宣伝をしてくれました。そうした社員の姿を見て興味を持った人がさらに入社してという感じで、関東防災工業は面白そうだと思ってくれる人たちが集まるようになったのは嬉しいですね。

幹部育成では、人を変えるのではなく新たな視点を持ってもらう

――組織作りで意識していることはありますか。

マネジメントをする人には人間力が求められると考えています。どうすればみんながパフォーマンスを発揮しやすくなるか、どうすればみんなの力になるのかなど、マネージャーは部下のことを思って動ける人でなければならないと考えているからです。なので、威張り散らしている人に対して私はすごく叱りますし、昇格もさせません。組織作りの土台として、そういったことを意識しています。

また、以前は責任者になることに対して、後ろ向きな人が多かったんですね。例えば資格を取得すると仕事が増えるので、試験は申し込むけれど受けに行かないといった社員もいました。しかし最近は前向きな人が入社してくれるようになったほか、若手に刺激を受けて「俺たちもしっかりやらなきゃ」とチャレンジしてくれる社員が増えています。採用を見直したことが、こうした好循環につながっていると考えています。

――家業を引き継いだ2代目社長、3代目社長によくある悩みとして、片腕となる幹部社員がなかなか育たないというものがあります。関東防災工業ではいかがでしょうか。

それは我々においても大きな課題です。正直なところ、育てるのは難しいなと感じています。みんな一生懸命仕事はしてくれるのですが、中長期視点で考えることに慣れていないんですね。幹部社員だとしても、視野がどうしても限られてしまう。そこからどう脱却させるのかは難しいところです。

特に現場部門や営業部門で実績を残してきた人は、培ってきたものに対して自信やプライドがあり、場合によっては社長よりも能力を持っていることがあります。そういう人に対して、こういう観点を持ってくださいとか、こう考えてくださいといっても、なかなか受け入れてもらえません。それで最近は人を変えようと思うのではなく、新しい視点を持ってもらうことを意識して取り組んでいます。ただ、本気で幹部を育てるのであれば、失敗してもいいから大きな権限を与えなければ難しいのかもしれません。

社員として働く人たちが満足できるように変革を推進

――関東防災工業は社員の平均年収が群馬県の平均を大きく上回っているのですが、その背景にはどういった思いがあるのでしょうか。

関東防災工業の経営に携わるようになり、決算書や社員の給与、賞与などを見ていく中で、このままで社員の人たちは関東防災工業に人生を預けられるのかなと考えたんですね。ただ働くだけの会社で、表層化していない深いところで根深い不満があるのではないか、そういったことを感じたんです。また衣食足りて礼節を知るという言葉がずっと頭にあって、社員が生活に困らないようにしたいと考えていました。

ただ賃金体系を一気に変えることは難しいですし、会社としての将来にも不安を残します。そこでまず基本給の見直しを図り、さらに賞与の回数を増やしました。それまでの賞与は夏の賞与と決算賞与だけだったのですが、それに加えて冬にも支払うようにしたんです。また賞与の基本的な考え方として、その期の利益のおおむね3分の1を社員の賞与原資としています。それをオープンにし、さらに月次決算を公開することにしました。営業利益のおおむね3分の1がみんなの賞与原資で、現状の営業利益はこうだというのを見えるようにすることで社員それぞれが段々と利益に対する関心を持つようになりますし、なによりオープンにすることで私が嘘をつけないようにしています。

いずれにしても「カンボウでよかった」という経営理念の元で様々な取り組みを実行していくためには、やっぱりまずは社員の人たちに満足してもらいたい。そのように考えて変革を進めました。ただ基本給はこれでいいのか、手当の額は適正なのかなど、まだまだ考えるべき問題はあるので、引き続き取り組んでいきます。

――日本では地方創生が課題になっています。関東防災工業は長年にわたって群馬県前橋市で事業を営まれていますが、地域貢献という観点で取り組まれていることはありますか。

関東防災工業が成長することによって貢献できることとして、より多くの人たちに働き口を提供することがあると思いますし、責任も感じています。特に学生の受け皿は近年減少している印象があるので、そこに少しでも貢献できればと考えています。実は今年も高卒採用した新人が入社するほか、高校の先生からも「安心して任せられる企業は決して多くないので、ぜひよろしくお願いします」と言ってもらえるようになりました。

前橋市に限定すると、非常に子育てしやすい環境ではありますが、働くことまで考えると、どうしても人材が都会に流れてしまう現状があります。そうした状況を改めるには、やはり魅力ある会社が地元で頑張ることが必要でしょう。

なお群馬県には、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)に所属している群馬クレインサンダーズというチームがあり、関東防災工業は長年オフィシャルスポンサーとして応援しています。そういった取り組みにより、群馬県の魅力に多くの人に触れていただけるきっかけを作ることができればいいですね。

経営者に求められる人間力を磨くべき

――昨今では女性活躍が大きなキーワードになっていますが、この点に関してはどのように考えていますか。

個人的な意見ではありますが女性こそこの仕事には合っているのではないかなと思います。関東防災工業の社員を見ていると、女性の方が細かいところに気が付くし、機転も利く。それと動線に無駄がないんですね。あそこまで行くのであれば、ついでにこれもやっておこうというような。私たちの社内でいえば、それができる男性はベテラン社員を除くと意外と少ない。

また、私たちはお客さまの建物に入ることになるので、きれいに作業したり所作を整えたりといったことも大切ですが、その点でも女性に分があります。そのため、女性はもっと活躍できると思っていますし、実際に今年度は新たに女性を採用しました。関東防災工業では、女性が働きやすい職場作りに取り組んでいますし、チャレンジできる環境を整えています。これからも女性の採用は続けていきたいですね。

――これから経営者になりたいと考えている、30~40代の若手に対してアドバイスをお願いします。

経営者はとにかく人間力が求められます。人との向き合い方を考えたり、自分の日々の行動を見直したりして人間力を高めていく、さらに多くの人と会って自分を磨く、そういったことに取り組むべきではないでしょうか。ちなみに、私がそのために心がけてきたのは、当たり前のことなのですが全員に挨拶すること、感謝の気持ちを伝えること、また提案や相談を受けたときにいきなり否定から入るのではなく、しっかり受け入れてから自分の考えを伝えるといったことです。

決定することの経験を積むことも大切でしょう。実は私自身、社員から不満に思われていたのが、何かの判断を求められたときに、「考えておくね」とか「じゃああとで決めておきますね」と言いつつ、物事を決めなかったことでした。それが不満だとフィードバックされたことから、判断を求められたり相談されたりしたときは、できるだけその場で答えることを意識しています。

確かに決めることには勇気が必要ですが、仮に間違ったとしてもそこから得られるフィードバックがあるわけです。逆に決めなければ何も得られません。そもそも経営者の仕事でもっとも大切なことは決断です。

また2代目、あるいは3代目などとして社長を引き継ぐのであれば、理想だけを追い求めないことも意識すべきことだと思います。会社を立ち上げた創業者は理想がすごく高くて、現実が伴っていないこともあるのではないでしょうか。現実である社内の状況などを蔑ろにしてその理想に引きずられてしまうと、成果が出ないときに一緒に働いている仲間が悪いなどと考えてしまいがちです。ただ、当然ですがともに歩んでいく仲間なので、理想だけを追い求めるのではなく、この仲間とどう歩んでいくのかを考えるべきだと考えます。

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