コロナ禍となってから2年目を迎えた2020年シーズン、B2は仙台が見事3年連続3回目の優勝を達成しました。FM(フィールドマネジメント)面では惜しくもプレーオフで悲願のB1昇格を逃した仙台でしたが、BM(ビジネスマネジメント)面では、B2トップとなるグッズ関連利益額(11,480千円)、2位の平均入場者数(1,059人)、アリーナ集客率(23.3%)を記録するなど、10項目全てで上位に入り、昨年までと同様に安定感の高い結果となりました。今回は、2020年シーズンのクラブの経営を担った、代表取締役副会長の渡辺太郎氏(2021年6月をもって退任)と代表取締役社長の志村雄彦氏の両名にインタビューを行い、デロイト トーマツ グループ独自の目線で分析しました。

コロナ禍を受けたいち早い経営の舵取り

2020年シーズンは、渡辺氏がクラブの代表として迎えた3年目のシーズンでした。2021年7月に新たにクラブの元看板プレーヤーである志村雄彦氏が代表取締役社長に就任、渡辺氏は代表取締役副会長となり、コロナ禍を受けて有事的な対応をケアするマネジメント(渡辺氏)と、中長期的なクラブの成長をケアするマネジメント(志村氏)という大きな役割分担での運営となりました。

これまでは「トップライン(売上高)」の向上に主眼を置いた経営を行ってきましたが、コロナ禍2年目も見通しの立たない外部環境を踏まえ、渡辺氏は「クラブを破綻させないための確実性重視の経営」に一気に舵を切ることにしました。その際意識したのは、コストを徹底的に抑制しながら、コアとなるファン・ブースターとの関係をより強固なものとする、ということです。

コスト面においては、クラブスタッフ全員の意識を統一することで、東日本大震災からの復興10周年を記念した「NINERS HOOP」の取り組みとして戦略的にホームアリーナ以外の会場で多く興行を行いつつも、試合関連経費は昨シーズンから約25百万円(▲20.9%)と大幅な削減を実現しています。

一方で、ファン・ブースターが最も望んでいるB1昇格を果たすべく、トップチーム人件費は前年から約29百万円(+23.5%)積み増すなど、ただ削減するだけでなく、よりメリハリの効いた予算配分も実施しています。収入面に関しては、集客に引き続き制約がある中で、限られたリソースをコアファンの満足度向上施策に集中させることで、入場者数の減少は避けられないながらも客単価を増加させ、入場料収入の予算達成に成功しています。

一方、「NINERS HOOP」などをフックとしたアクティベーション強化(後述)により、スポンサー企業数を増やすことに成功しており、結果としてスポンサー収入は約29百万円(+13.5%)増加しています。これらの取り組みの結果、2020年シーズンは見事当初予算通りの黒字化を達成しています。

コロナ禍という先行きを予測することが困難な状況に置かれながらの2期連続での黒字確保は、2020年シーズンに最終黒字を達成したのがB2全体で6クラブということを鑑みても、仙台の予実管理の精度と予算を達成するための実行力の高さを示す結果であると考えられます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

「NINERS HOOP」により生まれた相乗効果

昨シーズンの本インタビューでも紹介した通り、仙台では東日本大震災から10年という節目を迎える2020年シーズンから、地域と地域を、そして子供たちと未来をつなぐ活動として「NINERS HOOP」という取り組みを展開しています。

具体的には、2020年シーズンにおいては、コロナ禍によりB2におけるホームアリーナの6割使用ルールが緩和されたことを受け、ホームアリーナであるゼビオアリーナでの興行開催には固執せず、周辺地域でクラブとの接点が十分につくれていないエリア(県内7市町)における興行を積極的に展開しました。

この施策は、これまで普段バスケットボールを観る機会がなかった人々や、コロナ禍によりリアルな体験機会が減少している地域の人々に対して、活力や楽しみを届ける活動を通じて、クラブの活動に対する認知度の向上やファン・ブースターとの接点の構築が期待される取り組みとなりますが、相乗的な効果として、ホームアリーナ以外の各エリア会場での興行が増えたことにより、そのエリアで活動する企業などからの新たな協賛や支援の獲得につながったそうです。

仙台市以外の各市町での積極的な興行開催自体は、ホームアリーナの使用ルールの緩和を受けた一時的な施策となりますが、「NINERS HOOP」の活動は今後もその理念を維持しながら、ファンや地域住民、企業、行政などをつなぐプラットフォームとして活動の幅を広げていく展望となっています。実際、ゼビオアリーナ中心の興行開催に戻った2021年シーズンにおいても、「NINERS HOOP」で接点を強化した各市町の企業の多くから協賛を継続してもらうことができているという興味深いお話も伺えました。

このように、クラブのホームタウン活動、地域貢献活動を通じて、ファン・ブースターとの接点強化を図るだけでなく、スポンサー企業などとの関係強化、新たな協賛獲得につなげる事例は、コロナ禍という逆風からポジティブな成果を生み出した好事例といえます。

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

スポンサーシップのあり方のフェーズアップ

仙台市はプロスポーツに恵まれた都市であり、プロ野球(東北楽天ゴールデンイーグルス)、プロサッカー(ベガルタ仙台)、そしてプロバスケットボールの3チームが共存している環境にあります。その中で、野球やサッカーに比べ、露出量に劣るB2クラブである仙台が、スポンサー企業に対して広告露出という軸で価値提供を行うことは、相対的に難易度が高い状況にあると考えられます。

前述の通り、「NINERS HOOP」の取り組みなどを通じた新たな協賛獲得が増えているとのことですが、それに加え、近年重要性が高まっているSDGsという文脈で、スポンサーシップのあり方も大きく変わったそうです。仙台では、SDGsの文脈で、クラブがスポンサー企業に対してどのような貢献が可能かをクラブ内で徹底的に検討し、大きく次の3つに整理しています。

 ①クラブがSDGsを一般に認知してもらうための媒体となること
 ②SDGsを知らなかったり、興味・関心を持っていてもどのようなことに取り組めばよいのかが分からない企業が、クラブを使って取り組めるようにすること
③ 既にSDGsに取り組んでいるものの、その取り組みについて地域に対して十分な認知が図れていない企業に対して、クラブが地域やファンに知ってもらうための広告塔の役割を担うこと

この中で③については、野球やサッカーに比べ露出度の劣る仙台が担うことは難しいということで、主に②にポジショニングしたことがうまくスポンサー企業のニーズとマッチしているということです。

「NINERS HOOP」のような、スポーツを通して地域住民に勇気や元気を与える活動が地域に広く認知されたことで、これまでの広告価値を前提としたスポンサーシップではなく、クラブが地域や社会に対して生み出している価値も再認識され、さらにSDGsという文脈で企業とクラブが連携しながらそれに取り組むという、新たな枠組みでのパートナーシップの創出につながっているということです。

このような新たなパートナーシップの枠組みへの進化は、コロナ禍とそれに伴う社会変容という外部環境の変化に柔軟に対応し、広告露出型のスポンサーメニューから顧客のニーズに沿った課題解決型のスポンサーメニューへ転換できたことが背景に挙げられます。

これも、環境変化とクラブの置かれた状況を踏まえながら、スポンサーシップのあり方をフェーズアップさせていくという素晴らしい取り組みであると考えられます。

2021年シーズンより新たな経営体制へ

2018年シーズンから3年間にわたりクラブの代表として辣腕を振るった渡辺氏が2021年6月をもって代表取締役副会長を退任し、志村氏に完全にバトンが引き継がれました。

プロスポーツクラブの経営は、言わずもがな売り上げ・利益の拡大といった財務基盤の確保(BM面)だけではなく、同時に強いチームを作ること(FM面)が求められます。志村氏は2008年に仙台に入団してから、長きにわたりFM面でチームをけん引してきた元看板プレーヤーです。

FM面、特にチーム・選手たちの置かれた状況や心情を当事者として深く理解した経営者として、志村氏が渡辺氏の積み上げてきたBM面の財産を継承しつつ、元プレーヤーとしてのFM面の視点をどのように融合させて、昇華させていくのか、仙台の今後の動向からも目が離せません。